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耳が聞こえなくても格闘技の王者になれる、郷州が伝えたいメッセージ=10月度ベストファイターインタビュー

■私生活でもマイナスのことは言わないように心がける

 会場の大歓声、セコンドからの指示、ゴングの音……様々な音が飛び交う格闘技の試合会場だが、郷州は無音の中で一人戦っている。どのような気持ちで戦っているのだろうか。

「初めから聞こえないので、どんな気持ちと言われてもよく分からないですね。これが当たり前で戦っているので。正直、セコンドの声が聞こえないのは不便なことだと思うし、周りの応援が聞こえないのも不利なことだと思います。でも、見ることは出来るので。インターバル中でも最近は指示が分かるようになったかなと思います。アドバイスしてもらったことが出来るようにもなりましたし、インターバル中に周りを見る余裕も出来てきました。

 10月の試合は応援も多かったですし、セコンドの梶原代表も安保選手の対策をしっかり練ってくれたので、自分だけの力で勝てた試合ではなかったです。梶原代表、ジムメイトのプロ選手、応援してくれる方々の力があってこそ勝てた試合だと思っていますね」

 相手の口の動きで何を喋っているのかを理解する郷州だが、試合中の興奮状態の中でしっかり読み取れるのだろうか。

「興奮しているからこそ、逆に集中力も上がって口の動きがよく見えるんだと思います。集中している時はよく読み取れます。でも、口の動きで全部分かっているわけではないんです。いくつか分かった単語をつなげて、これは多分こういうセリフなんだろうなっていうのを想像するだけなんです。試合のインターバル中に言われることは限られているので、単語を組み合わせていけばこういうことを言っているんだなってことが大体想像つきます。それにゼスチャーもあるじゃないですか」

 とはいえ、試合中に限らず練習でも耳が聞こえないことはハンディとなるだろう。どうやってここまで強くなれたのだろうか。それは「練習量」だと郷州はシンプルに答えた。

「ジムでやれと言われたことをやっていただけなので、本当に周りのおかげだと思いますね。自分は技術がある方ではなくスタミナ勝負だと思っているので、走り込みをよくします。特に今回の安保選手に技術では全く勝てるとは思っていなかったので、ずっと前に出るしか勝てないと思って特に走り込みをしましたね。朝に30分くらい、昼の練習が終わってまた3~4Km走って、夜はボクシングの練習に行って終わった後に2~3Km走っていました。1日10Km以上は普通に走っていましたね」

 話を聞いていると、郷州はとてもポジティブだ。ハンディを背負っていることに対して微塵もネガティブさを感じさせない。

「昔は自分もネガティブだったんですが、ネガティブになっても耳が聞こえるようになるわけじゃない。だったら、聞こえないならどうすればいいんだろうとか、こうした方がいいとか、悪いところばかりを見るのではなく、聞こえないからこそいいところがあるんじゃないかって考え方を変えたんです。

 例えばどんなにうるさい場所でもぐっすり眠れますし、野次や悪口も聞こえないです。街で怖いお兄さんに“おい、こらっ!”って絡まれても聞こえないからそのまま素通りすることが出来ます(笑)。メリットも探せばたくさんあると思うんですよね。人間って悪いところに目が行くようになっているので自分も昔はそうだったんですが、今は良いところに目を向けて行こうって気持ちの変化がありました。

 最近は特にポジティブです。前はだいぶネガティブだったので。言霊ってものがあるように、言ったことが本当のことになると思うんです。1回目と2回目のタイトルマッチの時は『こんなんで獲れるのか』『勝てるわけがないな』ってネガティブに考えてしまったので、今回はなるべくポジティブに考えるようにしましたね。絶対に勝てると思うようになれました。キックボクシングだけでなく私生活でもマイナスのことは言わないように心がけています」

 なぜ郷州はそうなれたのか。キックボクシングという格闘技に出会ったこと、それを通じて多くの人と出会えたことが気持ちの変化へとつながった。

「キックボクシングを始めてからもだいぶネガティブだったんですが、今の会社(不動産関係)の社長と出会ったことが大きかったです。社長にはいろいろなことを教わりました。聞こえない子供たちの見本にならないとダメだとか、自信を持たないとダメだって言ってくれて。

 今回のタイトルマッチも直前になって調整が上手くいかない時があったんですが、社長がその時に『自信を持て』と言ってくれて。社長が自分を信じてくれているのに、なぜ自分が自分を信じてあげないんだろうって思って。自分を信じろってしっかり思えました。その時に身体が軽くなった気がしました。気持ちの持ちようだなって。それが今回のようないい結果につながったのだと思います」

 次の試合の予定はまだ決まっていないが、「2018年3月にさいたまスーパーアリーナのメインアリーナで行われるK-1に出たいです」との希望を持っている。

「ベルトを獲るという目標を達成できたので、次はまずKrushのベルトの価値を高めることが目標です。防衛することと、次のベルトとなるK-1のベルトを狙うこと。でも今の実力ではまだまだダメなので、もっともっと考えながら練習して強くなってK-1のベルトを獲りに行きたいと思います。

 もうひとつは、みんなにこれから手話も覚えて欲しいです。以前テレビに出た時に手話を使っていたんですが切られちゃったんです。あとマイクパフォーマンスの時も手話通訳士を呼んだんですが、テレビでは切られていたので残念でした。もっと聞こえない人たちも見て楽しめるような環境を作っていけたらいいなと思っています」

 耳が聞こえなくても格闘技でチャンピオンになれる。やれば出来るんだ、というメッセージを今後も郷州はリング上から発信していきたいという。

●受賞者・郷州が喜びを語る

 今回のベストファイター受賞について郷州は、「実力的に選ばれるような選手ではないんですが、周りの方々のおかげですね。こういう風に取り上げていただくことで他の耳が聞こえない人たちの目にも入るので凄くありがたいです。耳が聞こえなくてもチャンピオンになった選手がいるってことをもっともっと発信していきたいです」と語った。

 なお今回受賞した郷州には、イーファイトより記念の盾と、ゴールドジムからアルティメットリカバリーなどのサプリメント3種類が贈られる。

 郷州にサプリメントの利用方法について聞くと、「前はいろいろな種類を飲んでいました。飲めば強くなるかなって思って(笑)。でも飲みすぎても意味がないなと思って、一通り試してみて今は健康維持のためにオメガ3(必須脂肪酸)、クレアチン、グルタミン、マルチビタミンミネラルに絞っています」と答えた。



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