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【コラム】今さら聞けない『TUF』って何?コーチ対決の因縁とは何か

元WOWOWのUFC中継解説者としても知られる格闘技ジャーナリストの稲垣收(いながき・しゅう)氏が、世界を舞台に格闘技のディープな情報を発信する世界格闘技最前線。
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 日本時間・大みそかの『UFC 207』でバンタム級新王者となったコーディ・ガーブラント。そのコーディが『TUF 25』で元同級王者のTJ・ディラショーとコーチを務め、シーズン終了後には、王座をかけて対決することになった。しかし、そもそも『TUF』とは、どういう番組なのか? そしてコーディと元同門のTJの因縁とは?

 前回のコラムに書いたように、『UFC 207』でドミニク・クルーズから何度もダウンを奪って王座を奪取したコーディ・ガーブラント。そのコーディが、同級元王者TJ・ディラショーと共にUFC登竜門番組「TUF」のシーズン25でコーチを務めることになった。そしてシーズン終了後、コーチ対決としてコーディの王座にTJが挑戦する。コーディにとっては初防衛戦だ。

 しかし、そもそもこのTUFとはどういう番組なのか? 

 実は、これこそUFCが現在のような世界一の総合格闘技団体となるきっかけを作った番組だった。詳しくは知らない人も多いと思うので、説明しようと思う。

 そして、元チームメート同士だったコーディとTJの因縁についても書こう。

■35億円を超える累積赤字を抱えたUFCが
起死回生する原動力となったTUF

 1993年に米・コロラド州デンバーで第1回大会を開催したUFCは、噛みつき、目つぶし以外ほぼ「何でもあり」という過激なルールで、グローブなしの素手で殴り合い、時間も無制限、階級も無差別で、相手が失神するか、タップ(ギブアップ)するまで勝負が続くというまさに「究極の戦い」で、さまざまなジャンルの格闘家たちが戦い、どの格闘技が最も優れているのかを決めようというというものだった。

日本でもおなじみUFC代表デイナ・ホワイト

 当初はその過激さで人気を誇ったが、やがて「野蛮すぎる」という理由でバッシングを受けることになった。その急先鋒に立ったのが、大のボクシング・ファンのジョン・マッケイン上院議員だ。後の米・大統領選でバラク・オバマのライバルとなる有力政治家である。

 このためUFCはラスベガスやニューヨークなどの大都市での興行が行えなくなり、南部の田舎町でのドサ回りを強いられ、経済的苦境に陥った。

 この辺の詳しい事情は、筆者が現在ネット連載中の「UFCとは何か?」に書いている。

https://note.mu/hp_editor/m/m5b67db13f721

 UFCを運営していたSEG社は、まともなスポーツとして世間に認められるために、選手に「オープン・フィンガー・グローブ」着用を義務づけたり、体重別の階級制やラウンド制を導入するなど、「よりスポーツライクな競技」へと変えていくのだが、それでも一度持たれた偏見を覆すにはいたらず、経営不振から2001年に団体を身売りした。

 UFCを買い取ったのは、ズッファ社だ。もともとボクシング・ジムを経営したり、UFCファイターのチャック・リデルやティト・オーティズのマネージャーをしていたデイナ・ホワイトが、高校の同級生だったカジノ王の息子ロレンゾ・ファティータを誘って設立した会社だ。ラスベガスのステーション・カジノの役員をしていたロレンゾと兄のフランクがズッファ社のオーナーとなり、会長にロレンゾ、社長にデイナが就任した。

UFCの元オーナーであるロレンゾ・ファティータ(右)

 2001年の『UFC 30』からUFCはズッファによって運営され、ロレンゾがネバダ州のアスレティック・コミッションの理事だったコネもあって、ラスベガスでも大会が開催できるようになったし、多額の広告費をかけて大規模な宣伝キャンペーンを行った。

 しかしそれでもなかなか一般世間には認知されず、赤字経営は続いた。買収以来2004年までの累積赤字は3400万ドルにも達した。

 そこで2005年に、ズッファは最後の賭けに出た。

 製作費を全額自社で負担して、リアリティ番組『The Ultimate Fighter』(ジ・アルティメット・ファイター、略称TUF、「タフ」と発音)を制作し、TV局に売り込んだのだ。多くのTV局からは門前払いを食らったが、プロレス団体WWEの「RAW」を放送していたケーブルTV局「スパイクTV」が応じ、ここでRAWの後番組として放送されることになった。

 ケーブルTVが普及している米国で、スパイクTVはケーブルの基本セットに入っており、多くの家庭で無料視聴できた。それまでWWEを見ていたファンにTUFは大いにウケて、一気にUFCの人気が高まり、口コミでプロレスファンだけでなく一般層にまで広まり、大人気を博したのだ。

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