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【月間ベストファイター・12月】扇久保博正、修斗世界王座を返上し挑んだ”覚悟”のRIZINバンタム級Tで執念の優勝

■UFCを逃した男が元UFCファイターに抱いた思い

トーナメント1回戦では春日井寒天たけしに勝利(扇久保=上/2021年6月)

 GP初戦の春日井“寒天”たけしに判定勝利、2回戦でもプロデビュー同期の大塚隆史を判定で振り切った扇久保は、大晦日の準決勝で井上直樹と対戦することとなった。
「対戦が決まった時から、(婚約者の京香さんに)『井上戦しか考えていないから、俺は。だから、決勝はどうなるか分からん』と、ずっと言っていました」
 GPの出場メンバーが決まった時から、朝倉と並び「井上直樹に勝つ」ことにも、こだわりと執念を持っていた。

 2016年に、扇久保はUFCの登竜門『TUF(The Ultimate Fighter)』に参加し、フライ級トーナメントで準優勝を果たした。しかし、UFC参戦の夢はかなわず。井上直樹が日本人最年少の19歳でUFCと契約したのは、その翌年のことだった。井上戦にあたり、記者会見で扇久保はこんな心情を吐露している。
「僕はあの時から、心の底から幸せだと思ったことはありません。5年前、僕はUFCの切符をつかみかけました。でもその夢の切符をつかんだのは19歳の彼でした。このトーナメントが始まってから、僕は井上選手のことしか見えていません。必ず勝ちます。そしてこの4人の中で最後に笑っているのは僕です」

トーナメント準決勝では井上直樹と対戦(扇久保=左/2021年12月)

 迎えた準決勝。扇久保が「勝敗を確信した瞬間」と語ったのは2ラウンド、井上にマウントを取られた状態から上を取り返したシーンだったという。
「たすき(相手がたすき状に両腕で上半身を固める)でバックを完全に取られてから逃げるのって難しいんですよ。だから、わざとマウントを取らせて、相手が殴ってきてバランスを崩した瞬間に、片方の腕を取ってブリッジした。そして、バックをわざと取らせて、相手の足の中で回転して体勢を入れ替えた感じです。入れ替えた瞬間、相手の踵もとっさに持って、バックに回られるのを防ぎました」

 この一連の動きは「これまで何千回、何万回とスパーリングでやってきているので、勝手に身体が動いた」ものであり、最後に相手の踵を持ったのは「TUF時代に(コーチ役の)ジョセフ・ベナビデスに教えてもらったスクランブルの動きです」。MMAキャリア16年で積み上げた技や勘を総動員し、24歳の次世代エースをグラウンドで完封した。

■引退まで考えた屈辱の敗戦を払拭すべくGP決勝へ

扇久保が朝倉海にサッカーボールキック!(2021年12月)

 GP決勝は、瀧澤を判定で下し勝ち上がってきた朝倉海との対戦。20年8月の雪辱を果たすチャンスがついに到来した。
「前回は、相手ではなく自分に負けてしまったような悔しい試合だったので、変な言い方をすると『俺は格闘技向いてないのかな』と思うくらい落ち込んで、正直、やめちゃおうかなと思ったりもしました。僕は修斗を背負ってRIZINと戦っていると今でも思っている。それなのに、重要なタイトルマッチであんな試合をしてしまって。修斗の選手たちや関係者をすごくがっかりさせてしまったという思いも強かったです」

蹴りを放つ扇久保(2021年12月)

 3ラウンドの戦いで、扇久保自身が特に印象に残っている場面が2ヵ所ある。ひとつは2R、テイクダウンを仕掛けた際に、朝倉がニンジャチョークを仕掛けてきたシーンだ。
「ファンの人もそうだと思うけど、朝倉選手には幻想があるじゃないですか。『朝倉兄弟は腰が強い、身体のバネがとんでもない』みたいな。一体どれくらい強いんだというのが僕の中でもあって。でも、海選手がニンジャチョークを仕掛けてきて、その流れで簡単にテイクダウンできたんですけど、そこで海選手が背中をつけてくれて、僕が上を取る形になった。その時にすべての答えが出たというか。右拳が折れていたと言われるかもしれないけど、自分の中で思い描いて大きくし過ぎていたものがニュートラルになったんです。『海選手も普通の人間なんだな』と。その時点で、寝技で負けることは100%ないと思ったし、勝利を確信したのもその瞬間でした」

 もうひとつの印象深いシーンは、2ラウンドの終盤。
「がぶってヒザ蹴りを打っていて、ラウンドが終わるまで残り10秒くらいだったのかな、サッカーボールキックをしたんです。『やり返すなら今しかない』って」
 前回、TKO負けを喫した同じ技をやり返してやろう。その考えが浮かぶほど、精神的に余裕があったのか。この質問を扇久保は否定しなかった。「そうですね。あの時点ではもう、それくらい冷静だったと思います」

タックルに入る扇久保(手前/2021年12月)

 試合後半は、しつこいほどの“シングルレッグ地獄”でペースを譲らず。朝倉も意地でテイクダウンを許さなかったが、右拳の骨折は最後まで尾を引き、判定はジャッジ3名が扇久保を支持。リベンジとGP制覇を同時に果たし、リング上でプロポーズにも成功と、映画を地で行くような至福のエンディングを迎えたのだった。
「あの日はすべてにおいて、僕が世界で一番、運がよかったのだと思います」
 その言葉に誰もがうなずくだろうが、うなずいた全員が「優勝した理由の99%は運以外のもの」であることを知っている。

▶︎次ページ:GP覇者となった扇久保が決めている二つのこととは?

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