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2016年10月度MVPスペシャルインタビュー 梅野源治(REBELS)

■死闘の果てに待っていた栄光

 1Rはローの蹴り合い、2Rに早くもピンチが訪れた。ヨードレックペットの強烈な左ローをもらって、梅野が何度もバランスを崩す場面が観られたのだ。実は1カ月前に行ったWBCムエタイ世界王座の防衛戦で、相手をヒザ蹴りでKOした際に左ヒザを痛め、腫れ上がってヒザに水が溜まっている状態だった。

「ローはまともにもらわなかったので効いてなかったんですが、2Rの最初の方で右ローを左足でブロックした際にヒザがおかしくなったんです。それからローをブロックするたびに足が流れたので効いているように見えたんだと思います。

 ヨードレックペットがパンチとローで前へ出てきたんですが、圧力が凄かった。今まで自分から戦略的に下がることはあっても下がらされたと感じたことは一度も無かったんですが、初めて下がらされました」

 ムエタイで最も重要とされる3Rと4R。この2つのラウンドを制した者が試合に勝つことが多い。両者は当然勝負を懸けた。

「ヨードレックペットのパンチ、ロー、ミドルキック、一発一発が重かったんですが、3Rからは特に攻撃の質が変わりました。やっていて厳しい試合でしたね。左ミドルを右腕で受けたら試合中に亜脱臼してしまったほどです」

 梅野は圧力で下がらされるが、右ストレートと右ミドルをヒットさせていく。ヨードレックペットは左ミドルで応戦。途中、梅野がヒジで右目上のカットに成功し、ヨードレックペットを流血させた。

「相手がパンチで前へ出てくるタイミングで斬りました。ヨードレックペットは前傾姿勢にならずにパンチを打ってくるので、ヒジを当てにくいのは分かっていました。だから身体ごと飛び込んで打たないと当たらないと思ってその練習をしていて、いいタイミングで当たりました。その後、相手はパンチを打つのをためらっていたと思うので、相手のやりたいことを防ぐ要因にもなりました。

 ヨードレックペットの左ミドルは重かったんですが、僕のミドルも何回か当たっていて、相手の腕にダメージを与えられたと思います。パンチの威力も数も段々と少なくなっていったし、嫌がる素振りを見せていました。それで3Rの途中からヨードレックペットが下がるようになり、4Rは下がり続けていたので“勝った”と思いました」

 それでも5R、梅野はヨードレックペットをロープに詰めて左右ミドルの猛攻。ヨードレックペットを長い時間ロープに釘付けにした。梅野の攻撃が途切れると、ヨードレックペットは梅野に抱き着く。すると無抵抗を表すかのようにガードを下げてリングをグルグルと回り始めた。梅野も勝利を確信して同じように回り続ける。

 本場タイでは最終5Rによく見られる、勝負はすでに決したからこれ以上戦う必要は無い、というムエタイ独特の動きだ。そして試合終了のゴング。

 ラジャダムナンのスーパーバイザーによって判定が読み上げられ、ジャッジ3名とも49-48で勝者は梅野。ムエタイ500年の歴史の中で、ラジャダムナンスタジアムでタイ人以外の外国人が王者になったのは7人目、日本人では6人目となる快挙を達成した。

■「僕の試合を見に来てくれた人たちに何かを感じてもらえる試合をしていきたい」

 日本人の同ライト級王者は、世界で初めてタイ人以外の同スタジアム王者となった藤原敏男以来2人目(1978年)。38年ぶりに日本へ王座を取り戻した。また、現ラジャダムナンスタジアム認定スーパーウェルター級王者T-98と合わせ、1966年に日本にキックボクシングが誕生して以来初めて日本がラジャ王座を2つ保持することになった。

 悲願であったムエタイ最高峰のチャンピオンベルトを腰に巻いた梅野。それだけでなく、ヨードレックペットという本場タイのスター選手であり、誰もが認める相手に勝ったことが大きい。後日、試合の模様はタイのムエタイ専門誌『ムエサイアム』で報じられ、梅野のベルト姿がピンナップとなって掲載されたことがタイでも反響が大きかったことを物語っている。

「スーパーフェザー級とライト級には強い選手が一番集まっています。その中の王者であるヨードレックペットに、一発ラッキーパンチを当ててKOで勝ったのではなく、競り合ってタイのジャッジが認める判定で勝ったのは、ほかの選手には出来ないことをやったと思います。ヨードレックペットが最後は勝つのを諦めたことが自分の中で大きい。自分を誇れます」

 大きな目標を達成した梅野の次なる目標は、まずは防衛戦。「半年以内と言われています。タイで防衛戦をやって、生でタイのムエタイファンに見てもらいたい気持ちはあります」と敵地タイでも防衛戦をやりたいという。さらに、もうひとつの最高峰であり、まだ日本人が誰も獲ったことがないルンピニースタジアムの王座も手にしたいと大きな目標を掲げた。

 ヨードレックペットの強力な攻撃で、腕は亜脱臼、両足はボロボロで試合後は歩行不可能となって救急車で運ばれるほどのダメージを負った梅野だが、もう次の試合は決まっている。ブシロードが手がけることで話題となっている新キックボクシング大会『KNOCK OUT』の旗揚げ戦で、これまで日本人相手に5戦無敗の元ラジャダムナンスタジアム認定スーパーバンタム級&フェザー級王者シリモンコン・PKセンチャイジム(タイ)を迎え撃つ。

 また、年末にタイで開催されるビッグマッチ『ラジャダムナンスタジアム創立記念興行』に今年も招聘を受けているほか、WBCムエタイ本部からは、K-1 WORLD MAX世界王者ブアカーオ・バンチャメークと近代ムエタイの帝王セーンチャイ・PKセンチャイジムの2人しか持っていないダイヤモンド王座(ボクシング部門ではマニー・パッキャオやフロイド・メイウェザー・ジュニアらに与えられた各階級で最高の王者と指定された選手に贈られるベルト)の認定戦を梅野にやらせるとの話も出ているという。

「誰も獲ったことがないベルトを獲りたいですね。そして、僕の試合を見に来てくれた人たちに何かを感じてもらえる試合をしていきたいです」と梅野。新たなる歴史はこの男が築いてゆく。

関連リンク
・ゴールドジム Web site
・試合レポート「梅野が日本人6人目の快挙、ラジャ王座を奪取」
・過去のMVP選手一覧 

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