2025/06/29（日）UP
（最終更新：2025/06/29 09:44）

日大キックボクシング部を指導する山崎照朝氏（日大キックボクシング部提供）

　22日に死去した極真会館、初代全日本王者の山崎照朝氏（77）は、空手家、格闘技ジャーナリストとして高名だが、日本大学キックボクシング部創設者としての顔を持ち、最後まで“先輩”として学生たちを指導した。同部は現在も大学キックボクシングの強豪校である。映像には最近の強烈なミドルキック連打シーンも残されており、70歳を優に超えているとは思えない迫力だ。

【フォト＆動画】山崎氏の指導風景、70歳を超えての連続ミドルキック動画も

　山崎氏は高校時代から極真空手に入門し、1968（昭和43）年4月、日本大学農獣医学部（現・生物資源科学部）に入学した。しかし6月から学生運動が始まり大学は封鎖されることになり、空手の稽古に専念した。
　そんな中、1969（昭和44）年1月、TBS、日本テレビに続きNET（現・テレビ朝日）が『ワールドキックボクシング』の放映を開始すると、NETは極真会館へ参戦依頼をしてきた。大山倍達館長は当時の高弟から山崎氏・添野義二氏・及川宏氏の“極真三羽烏”を選出し、極真ジム所属のキックボクサーとして参戦させた。

2023年3月18日「全日本学生キックボクシング連盟創立50周年祝賀会」
鏡割り　山﨑氏（左）、笹川堯（中）藤原敏男（右）

　当初、あまり乗り気ではなかった山崎氏は2試合限定と大山館長に伝えた。それでも出場を決めた一つの理由は、沢村忠の連勝を止めたカナンパイの存在であった。空手をキックボクシングに応用し、デビュー戦はKO勝利、2試合目のカナンパイ戦では右ストレートで1ラウンドKO勝利を収めた。そんな山崎を興行側が手放すわけがなかった。山崎と交渉し、承諾した山崎は継続して参戦した。

　同年（1969年）9月の極真空手の初の全日本選手権で優勝した山崎氏は、NETのキック中継でも注目され、山崎氏の元には多くの学友が集まり始めた。こうして、農獣医学部キックボクシング同好会（現在の日本大学キックボクシング部）が結成されたのである。

　当時のデイリースポーツのインタビューで山崎氏は以下のように答えている。
「今度、日大内に“キック同好会”を結成しました。現在会員は三十人程です。キックはいいですね。キックのリズムにほれました。あのリズム感、空手が強くなるためにはぜひ取り入れなくてはなりません」（1970年3月8日）

　山崎氏は1972（昭和47）年の全日本学生キックボクシング連盟の設立にも尽力するも、1980（昭和55）年6月の大会を最後にキックボクシング部の活動から距離を置くようになった。当時32才の働き盛りであり、部のことは後進に任せ、仕事優先の生活スタイルに変わっていったのだと考えられる。

2013年11月30日「全日本学生キックボクシング連盟創立40周年祝賀会」

それから30年以上が経ち、山崎氏65歳の頃、女子ボクシングの江畑佳代子（第6代WBO女子世界ミニフライ級王者）があるインタビューで、「大学時代に日本大学キックボクシング部でマネージャーを務めていて、自分でもやってみたくなり、先輩に内緒でボクシングジムに通うようになった」と語ったことが山崎氏の耳に入り、2012（平成24）年より、日本大学キックボクシング部の活動の場に再び顔を出すようになった。監督ではなく、いち先輩として。

　山崎氏は自ら学生たちに教え、合宿やOB総会などほとんどの行事に参加した。高校を出たばかりの大学1年生から“山崎先輩”と呼ばれた。あるOBは、合宿で孫のような10代の部員に『山崎先輩、お食事の用意ができました』と呼ばれた時の嬉しそうな顔が忘れられないと語ってくれた。

葬儀には日大キックボクシング部の旗が掲げられた

　日大キックボクシング部の動画には山崎氏の指導風景が残されている。部員にワンツーなどパンチの打ち方、蹴り方を教え、試合で勝つ方法も伝授している。
「相手のパンチは自分の頬をギリギリかするくらいで対処する。ここで受け流しでヒザ蹴り」と、山崎氏は空手技を活かし自身の体軸をぶらさず、内受けで相手を崩し鋭いヒザ蹴りを入れている。

　亡くなるまでの13年間は精神的支柱として日本大学キックボクシング部を支えてきた。山崎氏の葬儀会場には、山崎氏が創部した日大キックボクシング部の旗はもちろん、山崎氏がデザインした同部の金属バッジも展示された。それだけではなく、学生、OBらは葬儀ボランティアスタッフとして駆け回った。創部から約55年、いまも生き続ける結束力は山崎氏の晩年の尽力の賜物でもある。

　山崎氏の遺志を継ぐ日大キックボクシング部、さらなる成長に期待したい。

次のページは【フォト＆動画】山崎氏の指導風景、70歳を超えての連続ミドルキック動画も