【3月・ベストファイター】伊澤星花、DEEP JEWELS“史上初２階級制覇”できた作戦と判断、JTT移籍で打撃力アップも

■「極め切れると判断するまで無理に力は入れない」冷静に“その時”を待った

　対戦相手について「レスリングがすごく上手で、レスリングの強みを活かして打撃でポイントを取って勝っているようなスタイル」と分析していた伊澤。そのレスリング力に加えて、試合が始まると“伊澤対策”もしっかり練ってきていることを感じたという。

1R、下から仕掛ける伊澤

　1R全般で試合の主導権を握ったのは伊澤だった。2度目でタックルを決め、足をすくってテイクダウンに成功するやダースチョークを狙う。ここはシユンに脱出を許すが、終盤には下からパウンドを当てながらポジションを整え、三角絞めの形に入った。

「シユン選手は気持ちが強いなと思いました。1Rに極められそうな形にはなったんですけど、気持ちが折れずにしのぎ切ったところも、この試合に懸ける思いが伝わってきました」

　そんなシユンに対し、伊澤は強引に一本を取りに行かず、冷静に試合の流れを読んでいた。

「1R目に行き過ぎてしまうと体が張ってしまったりするので、自分の場合はがっつり極まるポジションに行かないと、力は完全には入れません。今回の1Rもそこまでがっつりではなかったかなと思ったので、あまり極め切る動きはしませんでした。それでも、（相手が）しっかり対策、対処してくるなということは分かりましたね」

最後はニンジャチョークでシユンからタップを奪った

　試合が大きく、いきなり動いたのは2R早々だった。

　前蹴りでプレッシャーをかけながらシユンとの距離をアジャストした刹那、右ストレートがジャストヒット。思わず腰を落としながらも組みつこうとするシユンを首から捕らえると、流れのままにニンジャチョークをセットし、タップアウトを呼び込んだ。

　極め切る力はさすがの一言だが、伊澤本人は「打撃を効かせることができたことが一番の成長」と振り返った。

■JTT移籍で打撃技術のフェーズを1段階、2段階も飛び越えられた

　4歳から始めた柔道ではインターハイ3位、小学4年から始めたレスリングでも中学時代に全国制覇を経験しているだけに、寝技に関しては「考えて動かなくても勝手に身体が動くというフェーズに来ている」。そんな伊澤にとって、MMAを本格的に始めた当初から課題としていたのが「打撃」だった。

「殴られる恐怖感や殴ることへの躊躇があった」というところからスタートし、この4年で苦手意識を克服すべく打撃強化にも取り組んできた。そのフェーズを今回は1段階、2段階飛び越えたと実感している。理由は「JTT（ジャパントップチーム）への移籍」。自身のジムであるRoys Gymと同時所属の形で、この3月からJTTで中身の濃い練習を重ねてきたという。

打撃の成長も見せた伊澤（左）

「JTTに行ったことで、より自分の打撃の現在地が見えてきて、今やることが明確になって、自信を持って試合に臨めたことはすごく大きいです。これまでは『打撃できるかな』という不確かな感覚でやっていたんですけど、今回はしっかり根拠を持って試合に臨めたので、2R目に打撃で行こうと思うことができたのだと思います」

　理論派の顔を持つ伊澤は、技や動きを“腑に落ちる”ように理論や理屈で自分の中に落とし込みたいタイプ。それが、JTTでの指導と合致した。

「今までは、打撃に関しての言語化があまり自分の中ではできていなくて、感覚で動いていたところがありました。でも、JTTでの小倉（將裕）コーチやエリー（・ケーリッシュ）コーチの指導で、パンチの打ち方から始まって、当てるところまで持っていく流れの作り方、逆に当たらないための位置取りなど、すべて1から10まで理にかなった形で作ってもらいました」