平本蓮「総合格闘技に不安がなくなった」戦いを進化させた“MMAで勝てる”空手稽古を取材【11月・ベストファイター】

■平本が試合前に正座で礼をした意味、基本稽古が試合に直結する

黙想する平本

　稽古の始まりには、正座をして並び黙想、礼を行う。
　前回の試合では、試合前のコールがされると、平本は試合上で正座し黙想、そして両手をつき礼。起き上がると平本らしく中指を立てるパフォーマンスを見せたが、これには何か意図はあったのかと聞くと、平本は「思い付き。いつも空手でやっていて、なんとなく出た」と言うが、岩﨑氏は「正しい正座をすると、重心が落ち姿勢が決まる。押されても動かないものが身につく。それが試合で生かせる」と教えてくれた。

　平本は「みんながバランスを崩す展開でも、自分は常に強いパンチを打てる、どのタイミングでも強い攻撃を当てるというのが理想だった。それが剛毅会空手の重心の意識で立つこと、座ることや足の意識など、自分の理想とするものが岩﨑先生との出会いで開けた」と剛毅会空手に出会い、確信を持ったと言う。

平本の突きを直す岩﨑氏

　立ち方や姿勢は基本。それをしっかり意識して行う。
　稽古ではそれぞれ四股立ちで構え、左右の直突きを打つ。時折、岩﨑氏の「ヒジから打つ」という声かけや、腕や肩、引手の位置、姿勢など細かい修正が一人一人に入る。
　平本も真剣そのものの表情で、集中し大きな呼吸と共に、直突きを繰り返す。

　次に右足前、左足前に構えての突き。さらにその後、前へ出ての順突き、前蹴りからの突き、下がりながらの受けなど移動稽古を行った。岩﨑氏から「（移動する）勢いを使わない」という声が飛ぶ。あくまで構えに入ってからの突き・受けだと言う。

前蹴りからの突き、移動稽古を行う

　平本はケガをしてから岩﨑氏の元で、この基本・移動稽古を繰り返し行った。とくに右足前の、サウスポースタイルからの左逆突き（左ストレート）を幾度も反復したと言う。これが弥益戦での、下がっては瞬時に構えに戻ってのカウンターパンチに生きたことは間違いない。

　稽古はその後、2人で組んでは、相手の直突きに対し、自分の直突きを寸止めで入れる。岩﨑氏が何度も声をかけたのが“目と姿勢”についてだった。
　岩﨑氏は生徒に「目が死んでいる、殺す気で」とすぐさま指摘し、さらに胸骨と骨盤を立てた正しい姿勢へと戻す。
　岩﨑氏は「姿勢を変えると、目が変わる」と言う。構えの変化で、意識や視野が変わるのだ。平本が弥益戦で見せたブレのない姿勢と、冷徹かつ一切の隙のない目は、この稽古の賜物なのかもしれない。

■空手“優等生”平本、“先（せん）”の意味を学ぶ

大塚隆史（左）と組手を行う平本

　さらに自由組手へと移る。2人で組んでは突きを中心に自由に出し合う。中でも印象深かったのが、合間に岩﨑氏と平本や生徒たちが話していた“カウンター”と、空手の“先（せん）”についてだった。

　平本と向かい合った岩﨑氏は、平本の突きに対し突きを返す。しかし平本の突きが当たる場合と、岩﨑氏の突きが先に当たる場合がある。
　岩﨑氏は「同じ距離でも、先を取れていないと（突きを）もらう。先を取れていると（突きが）入る。先というのは、来た（攻撃に）必ずこちらの間合いで取るもの」と言う。

平本の突きに対し、先に入る岩﨑氏

　続けて「スポーツでは、カウンターを合わせるなど“タイミング”が一番偉い。武術では“タイミング”が一番下。何故か」と問いかける。平本が即座に「事故が起きるから」と返す。岩﨑氏は顔をほころばせ「優秀、優等生」と笑う。

　岩﨑氏は理由を説明し「失敗したら困るから。車の運転をタイミングでやっていたら、事故る。武術も同じ」と、失敗が即“死”に結び付くからだと言う。

　平本は、岩﨑氏の“先”を受け「タイミングがずらされる感じがあります」と素直に感想を述べる。
　岩﨑氏は「たとえば卓球だったら、お互いにポンポン返し合う。タイミングをずらしてボールを返すのは、そもそも相手のタイミングがあるから出来ること。そうではなく、タイミング自体を成立させない。テーブルを相手にぶつけて卓球自体を成立させない感じかな。設定自体をひっくり返すのが武術」と“先”と（タイミングのある）“カウンター”の違いを説明してみせた。