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第2回「合宿先での出来事が新米記者にとって大きなチャンスに」

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  ところが、言うことを言ってスッキリしたのか、一番凄い剣幕で怒っていた支部長が「まあ、キミにここでこんなことを言ってもしょうがないよな」と冷静さを取り戻したことで悪夢の時間は幕を閉じた。続けて、「ちゃんと取材していってよ」と言われてしまったので、帰るのもやめることに。

  当時の極真には現在のようにちゃんとした広報がいるわけでもなく、合宿の取材をするのもゴン格と極真の機関誌『パワー空手』(現ワールド空手)だけ。ボクは初めての極真の取材だったので知り合いもおらず、何をどうしていいのかさっぱり分からない状態だった。そのため広場でボーッとしていたら、一番最初に挨拶した横溝監督が話しかけてきてくれて、食事の場に誘ってくれた。ありがたかった。

  「あそこで寝なさい」と言われ、宿舎の大広間に行くと、そこにはぎっしりと布団が敷かれていてすでに道場生たちが寝ていた。どう見てもボクが寝る場所はもうない。仕方がないので押入れを寝床にすることにした。ボクが押入れに潜り込むと、近くで寝ていた外国人の道場生が気付いて「そんなところで寝るのか?」 というようなことを話しかけてきたので、「場所がないからここがマイベッドだよ」と片言の英語で答える。彼は驚いたような表情で「グッドスリープ」と言ってくれた。昼間が昼間だったので、何となく嬉しかった。

  翌日は朝練と昼練習を取材。夕方近くになると海水浴の時間になったため、そろそろ引き上げることに。「これでやっと解放される…」と思った。一刻も早く、ここから去りたいというのが本音だ。大山総裁にだけは挨拶しておこうと思い、取材のお礼を言うと総裁は凄く温和な表情で「はい、ご苦労さん。大きく載せてくれよぉ!」と言って握手をしてくれた。その手は信じられないくらい分厚く、意外なほど柔らかくて温かかった。

  しかし、海岸からこっそりと去ろうとしたところへ、前日に一番凄い剣幕で怒っていた支部長が近寄ってきたのである。「うわっ、また何か言われるのか」とボクはもう、うんざりした気持ちに。ところが、その支部長が発した言葉は「熊久保さんだったっけ? 昨日はいろいろ言ってしまって悪かったね」というものだった。それからなぜ自分たちが怒っているのか、どれだけ極真を大切に思っているのかというような内容の話をされた。その話を聞いて、前日の支部長たちが なぜそんなに怒ったのかが分った。

  最後にその支部長はもう一度、「昨日は失礼なことをいろいろ言ってしまって悪かったね。また取材に来て下さいよ」と謝ってくれた。ボクはなぜか泣きそうになった。それで思いなおし、前日ボクに罵声を浴びせた支部長たちにも挨拶をして帰ることに。すると全員が前日とはうって変わって柔和な笑顔を浮かべて「お疲れ様、ありがとう」と言ってくれた。おそらく、冷静になってみてバツが悪くなったのだと思う。

  さらに、この出来事が新米記者だったボクにとって大きなチャンスを生むことになる。それ以来、支部長たちがとても優しく接してくれるようになったのだ。取材がメチャやりやすくなったのである。まさに災い転じて福となす。他の支部長たちにも「彼は一生懸命に取材をしてくれる」と紹介してくれたり、一気に顔と名前を売ることが出来た。

 結果的に、大山総裁にも一発で顔を覚えられることになったのだ。

>>この続きはこちら!「取材の裏側 大山倍達」第3回

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