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第9回「ムエタイの奥深さを知った、空気を切り裂くような少年のヒジ打ちとバーのムエタイ・ショー」

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「ムエタイの魅力、語りまくります」の第9回。今回も初めてタイへ行って本場のムエタイを見た時のエピソードを中心に綴っていきたい。

「鬼の黒崎と行くムエタイツアー」は1日目ラジャダムナン、2日目ルンピニーの両スタジアムで試合を観戦し、3日目はタイのリゾート地として有名なパタヤへの移動となった。ツアー参加者たちからは「もっとムエタイの試合が見たい」との不満の声も上がったが、主催者は「パタヤでもムエタイは見られる」と説明。当時はボクも何も知らなかったので、パタヤにもムエタイをやるスタジアムがあるのだな、と理解した。

 バスに揺られて数時間、パタヤに到着するとホテルに荷物を置いてさっそくビーチへと繰り出した。ところが……なんとビーチには信じられないくらいに大量の魚の死骸が波に打ち寄せられていたのである。「なんだこりゃ?」と呆然とするボクたち。聞くところによると、外国の企業が次々とタイに工場を作り、その工場からの排水が原因だとのこと。なんとも痛ましい光景にボクらは言葉を失った。

 リゾート気分はすっかり覚めてしまったのだが、ツアーが目指すところはそのビーチではなかった。そこからモーターボートに乗って、コーランという島に行くという。ボクらは何台かのモーターボートに乗り込み、コーランへ向かうことになった。

 ボクが乗ったボートには操縦者のほか、船尾に13~15歳くらいのタイ人の少年が座っていた。おそらく乗客の安全を見張る役割なのだろう。その少年に、ツアー参加者の一人がちょっかいを出し始めたのである。「ムエタイ知ってる? シュッ、シュッ」とヒジ打ちの物まねをすると、少年はニヤリと笑って座ったままヒジ打ちを繰り出したのだ。

 その瞬間、乗船していた全員が「おおーっ!」と驚きの声を上げた。少年が繰り出したヒジ打ちはもの凄く速く、フォームが美しかったのである。本当に空気を切り裂いたかのようにさえ見えた。日本刀を目の前で振られたら、こんな風に見えるのではないだろうか、と思ったほどだ。それほど美しく、危険なものを感じる見事なヒジ打ちだった。この時の光景は今でもハッキリと目に焼きついている。

「ムエタイをやっているの?」と少年に聞くと、「少し」と答えた。先ほどのちょっかいを出したツアー参加者が「どうやってやるか教えて!」と頼むと、少年は身振り手振りで「まずヒジを横に振り、ヒジの鋭角になった部分が自分の両目の間に来たらヒジを下に落とすんだ」と教えてくれた。

 コーランに到着し、現地で合流した主催者(スポーツライフという出版社の社長)にボクらは興奮気味にボートの上であった出来事を話した。すると主催者は「パタヤにはムエタイを見せるバーがたくさんあって、そこに出場している子なんだろう」と教えてくれた。そう、パタヤではスタジアムではなくバーでムエタイを見せているのである。

 とりあえず、コーランでボクらはリゾート気分を楽しんだのだが、デッキチェアを借りて寝転がっている時も先ほどの少年のヒジ打ちを思い浮かべていた。彼は別にランカーでもなければ有名な選手でもない。しかも、中学生くらいの子供である。その子があれほど見事なヒジ打ちをやるとは、ムエタイってなんて奥深いんだと考えていた。

 ムエタイをピラミッドで考えたら、ラジャダムナンとルンピニーがその頂点にあり、バンコク中心地から少し離れたところにあるランシットやサムロンなどのスタジアムがその下。あの少年はさらにその下のピラミッドの底辺に位置するくらいのレベルであろう。それなのにあんな凄いヒジ打ちを使えるなんて……もしあれがチャンピオンのヒジ打ちだったらどれだけ凄いのだろうと考えると、ムエタイの競技人口の厚さやレベルの高さに身震いした。

 ホテルに戻ってから夕食までの時間、ボクは仲良くなったツアー参加者たちと喋っていたのだが、話題はもっぱらあの少年のことだった。教えてもらったヒジの打ち方を真似してみる者、あの少年はそのうちチャンピオンになるんじゃないかと言う者。みんな同じようにインパクトが強かったようだ。

 夕食を済ませると、次はいよいよムエタイが行われているバーへ。そこには決して本格的とは言えない粗末で狭いリングがあり、その周りをテーブルが囲んでいた。試合が始まると場内の外国人観光客が大騒ぎを始め、非常ににぎやかになったのだが……ボクは「あれれ?」と思っていた。 ・・・

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