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井上尚弥、統一戦決裂も年末へ向けスパーリング三昧の日々=9月度ベストファイターインタビュー

■年末の試合へ向けてスパーリング三昧

2016年5月、ダビド・カルモナを下してV2

 お手並み拝見のアメリカ初見参。井上とリング上で対峙したアントニオ・ニエベス(アメリカ)は17勝(9KO)1敗2分の同級7位。「唯一の敗戦でも、多くの人間が私が勝ったと思ったはずだ。井上にはベルトをアメリカにおいて帰ってもらう」と豪語したが、序盤の第2ラウンドに左アッパーをボディに受けると、早くも表情を歪ませて消極的に。第5ラウンドには、再び左ボディブローで生涯初のダウンを奪われた。ビビってしまったニエベスを誘いだしては追い込むの繰り返しで、井上は6回終了時点でTKOに追い込んだ。

 そこまでの採点でもジャッジ三者がそろって60対53とパーフェクトだった井上だが、試合後には、相手のしとめ方について反省の弁を口にした。

2016年9月、ペッチバンボーンをKOしてV3

「消極的な選手を倒す詰めかたも、普段の練習からやっていなかったわけじゃない。けど、アメリカ人に認めてもらおうととにかく力んでしまった。空振りしたら、そのままロープにもたれかかるくらい、バランスを崩したりとか、いつもなら、ほとんど起こさないことをやってしまって…」

 試合3日前に行われた公開練習では、井上が最大の注目選手となり、一問一答を合理的に行うため、目の前に現地記者が列を成した。未経験形式のインタビューや、入場時の盛りあがりかたも今までと異なる迫力で、表現が古いかもしれないが“一旗揚げる”という意識が、井上に具体性なく生まれてしまったようだ。

2016年12月、河野公平に6RTKO勝ちでV4

「次回は日本で戦っていると思って試合をする。それだけは決めています。結果的に現地の人たちが喜んでくれたならいいなって」

 この日一番の「失敗」はメインイベントにあった。ロマゴンはWBC世界同級王者のシーサケットから返り討ちにあってしまったどころか、4ラウンドKO負けの完敗。最強神話の崩壊が、スーパーフライ級劇場の根幹を揺るがしたのだ。大橋会長は詳しいビジョンまでは口にしないが、「ロマゴンが勝ってさえいればね…」といまだ悔やしそうにする。

 それならば、生き残った井上は標的をずらして「シーサケットを倒す」と宣言するのがベストかもしれない。しかし井上が発したのは「IBF世界同級王者ジャーウィン・アンカサス(フィリピン)との統一王座決定戦希望」だった。その理由を本人に聞くと、「高級車」はまたふと「セールスマン」の一面をのぞかせた。

2017年5月、リカルド・ロドリゲス(左)を3RでKOしてV5

「たしかにシーサケット戦がシンプルですけど、あの日はWBCの挑戦者決定戦もあってファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)が勝っています。来年にシーサケットとエストラーダが戦うなら、その次までは、さすがに自分の体重をスーパーフライ級で維持できないんです。WBAでも石田匠選手(井岡)の挑戦が近日に決まっているから、自分の次(の試合)が年末だったら、掲げられるビッグマッチはIBFとの統一戦しかなかった」

ジムでスパーリングを重ねる井上尚弥=10.19撮影

 ごもっともな意見である。ただ、細かい計算はひとまず置いておいて、夢のあるリップサービスをかましてほしかったとも思ってしまう。このように「現実」と「幻想」の狭間で人を熱くさせるのも、可能性あふれる井上ならではなのだ。なお、アンカサス戦の交渉はすでに「決裂した」と複数メディアでも報じられているが、年末にもうひと試合行う予定は変わっておらず、井上は様々なタイプのボクサーを招いてスパーリング三昧の日々を送っている。

 その背中はかつての印象よりもだいぶ大人びてきた。

「6回防衛したら挑戦者の候補も限られてきたけど、妻子を持ったせいか、今まで以上に練習に気合いが入っています」

 小型でハイクオリティなメイド・イン・ジャパンの高級車。井上は、日米のニーズの違いに、どんなバランスを取って走っていくのか。
(文・善理 俊哉)

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