2015年6月度MVP 川尻達也
毎月イーファイトが取材した大会の中で、最優秀選手を決める月間MVP。2015年6月のMVPは、6月20日(土・現地時間)ドイツ・ベルリンで開催された『UFC FIGHT NIGHT』でデニス・シヴァーに判定勝ちし、UFCで2勝目をあげた川尻に決定!(2015年7月9日UP)
PROFILE
川尻達也(かわじり・たつや) |
選考理由
1、「完封勝利でUFC 2勝目をあげる」
2、「地元選手に有利な敵地で勝利」
3、「3度目の網膜はく離を克服しての復帰」
選考委員
Fight&Life、ゴング格闘技の各格闘技雑誌の編集長とイーファイトの全スタッフ
受賞された川尻選手には、ゴールドジムより以下の賞品(プロカルシウム 300粒 1個、マルチビタミン&ミネラル 1個、アルティメットリカバリー ブラックマカ&テストフェン+α 240粒 1個)と、イーファイトより記念の盾が贈られます。
贈呈:ゴールドジムMVP記念インタビュー
現役を続けるからには、もちろんトップを目指す
■引退を決意した3度目の網膜はく離
川尻達也が帰って来た。6月20日(土・現地時間)ドイツ・ベルリンで開催された『UFC FIGHT NIGHT』で約1年2カ月ぶりの復帰戦。ちょうど1年前の昨年6月、川尻は左目の網膜はく離という悲劇に見舞われた。
これが初めてではなく、2012年8月、2013年2月と2度にわたって網膜はく離となり、2度とも手術が成功して復帰を果たしたが、さすがに3度目ともなると川尻は限界を感じたという。
「完全に引退を決意して、仲間にもそう伝えました」
ところが、10年間ともに歩んできたボクシングトレーナーから言われた一言が、川尻にとって一筋の光明となる。「ちょっと待て。他に手がないか調べてみる」と。そのボクシングトレーナーが人づてに深作眼科という病院の評判を聞きつけ、川尻に診察を受けるように薦めてくれたのだ。
「診察だけでも受けてみてと言われて行きましたが、もし以前と同じ治療法だったら同じことの繰り返しになるだけなので辞めようと考えていましたね。でも、今までと全く違う治療法で、どれだけ日本の網膜はく離の治療法が遅れているかという話を聞きました。僕と同じ症状で治療を受けて復帰したファイターがいて、現役を続けているって話も聞いて。それなら、僕ももう一度出来るかもしれないと思い、3度目の手術を受けることにしました」
7月末に手術は無事成功し、9月には練習に復帰することが出来た。最初は軽い運動から始め、段階的に元の練習に戻していった。
「多分、日本の考えだと3回も網膜はく離の手術をして復帰出来るわけがない、と思うのが普通でしょう。でも海外のボクサーには8回くらい手術をしている選手もいるらしくて。僕もどん底だったけれどそういう話を聞いたり、周りの人たちも励ましてくれたりしたので、本当にきつかったけれど何とか復帰してやるって気持ちだけで1年やりました。
本当に復帰出来るかも分からないし、復帰したところで強さを取り戻せるかも分からない。取り戻すどころか、前よりも強くなっていないとUFCでは通用しないことも分かっていました。そういう意味では不安な日々でしたが、周りに助けられながら、自分を信じてやるしかないって感じでしたね」
身体が本格的に動かせない時も、川尻は休むことがなかった。試合の映像を見てひたすらUFCで勝つ方法を研究した。
「自分に合う技術を探していましたし、みんながどう戦っているかも研究していました。この選手が気になると思ったらその選手の試合を何回も見て研究しました。例えばリョート・マチダ(第10代UFC世界ライトヘビー級王者)なら技の角度とか距離感を見ましたし、TJ・ディラショー(第3代UFCバンタム級王者)なら構えをスイッチしながら戦うところとか」
■復帰に際して最も強化したものとは?
そして迎えた復帰戦。対戦相手は地元ドイツのデニス・シヴァーだった。日本であれば大歓声を浴びての復帰戦となっただろう。しかし、ここは敵地。ブーイングで迎え入れられることは覚悟の上だった。
「公開計量の時、当然僕には全く声援がなかったんですが、シヴァーの時もシーンとしていて。“コイツ、人気無いな”と思っていたんです。ところが、試合当日の入場の時は地鳴りがするくらいの物凄い声援で、“コイツなんだよ”って思ったんですが、不思議と僕へのブーイングは全く聞こえませんでした。
試合中も僕へのブーイングが凄くて、反対にシヴァーがちょっと切り替えして立ち上がっただけで物凄い声援が起きるような状況で。判定で不利になるんじゃないかとドキドキしていた、と試合後にセコンドから聞きました。でも僕には全然分からなかったんです。多分、凄く集中していたのでセコンドの声しか聞こえず、ブーイングは全く聞こえませんでした」
それほどの集中力で臨んだ試合、川尻は序盤に今まで見せたことがない後ろ回し蹴り、ジャンプしての前蹴りや回し蹴り、バックハンドブローなどをトリッキーな動きの中で次々と繰り出した。
「左右どちらの構えでも自在に動けるように練習していたし、足技も怪我から復帰してスパーリングが出来ない時にずっと練習していたものなんです。一番スタンドで気をつけていたのは相手の攻撃をもらわないことだったので、それも含めて自分で考えて出した答えがあれでした。今回の試合のためではなく、ずっとああいう動きの練習を続けてきていたんです」
網膜はく離という絶望的な状況からの奇跡の復帰に際し、川尻が最も強化したのはディフェンスだった。
「自分がUFCで生き残っていくには何をしなければいけないかって考えた時に、スタンドが一番の課題だったので、今のままでは目の怖さもあるし、なるべく攻撃をもらわないためにはどうすればいいかを考えました」
その研究の成果は試合で発揮された。相手の攻撃をほとんどもらうことなく、得意のタックルからのテイクダウンで相手の動きを封じ、完封勝利を収めたのである。
「勝った瞬間は気持ち良かったです。1年2カ月も待ち望んでいたので。ホッとしたというのと戻って来れたという感情がありました。僕は勝たないと復帰したとは言えないと思っていたんです。ただUFCに戻ってきただけではダメで、勝ってこその復帰だと思っていました。
2014年1月のUFCデビュー戦で僕が勝ったとは言っても向こうもデビュー戦だったので、今回のシヴァーはUFCで19戦もしている選手だったのでそういう相手に勝ったというのはやっとUFCで勝てた、という気がしました。自分の中ではしっかりとポイントを取って勝てたっていうのがあります。練習してきたことが出せたなって」
復帰を果たした川尻は、今こう思う。
「仲間の存在が大きかったですね。一人だったら確実に辞めていた。再々発した時点で、現役を続けようなんてこれっぽっちも思っていなかったんです。仲間の存在が刺激にもなったし。勇気をもらえました。
あと、どうしてもこのままでは終われないなっていう気持ちもありました。川尻はやっぱりダメだったな、UFCでは無理だったな、終わったなって言ってるヤツらを見返してやりたいという怨念のようなものも大きかったですね。ちくしょう、このまま終われるかって思っていました」
毎朝、目が覚めると目が見えることにホッとする。練習中だけでなく、日常生活の中でも、また発症したらどうしようという恐怖と戦っている、と川尻。しかし、以前よりも強くなって戻って来れたという実感はある。
「現役を続けるからには、もちろんトップを目指します。そこだけはブレてはいけないところだと思っているので。これからも一番を目指してやっていきます」
川尻は前だけを見つめて、再び走り出した。
関連リンク
・ゴールドジム Web site
・試合レポート「網膜剥離を克服した川尻が復活のV」
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