【コラム】グローブタッチは是か非か
レフェリーの試合再開の合図が曖昧であったために賛否両論あったが、判定が覆ることはなかった。リングは戦場である。いつ弾丸(タマ)が飛んでくるかわからないのだ。オルティスの取った行動は丸腰で敵陣に乗り込むようなものだったのである。
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グローブタッチは是か非か。関係者の反応
タレントのなべやかん氏はボクシング界との深い交流があり、ボクシング経験者でもある。30年前からグローブタッチする選手を見てきたが、彼は「より緊張感のある戦いを見たい」という理由から反対する。
「試合前にリング中央でグローブタッチするのだからそれ以外は必要ないですよ。浜田剛史さんのような試合開始と同時に相手に向かっていき打ち合うボクシングが好きです。ルールとは言え、最終ラウンド開始前のグローブタッチもいらないですよ。グローブタッチのようなスキンシップは戦いの中に不要です。元世界2団体統一王者のリカルド・ロペスは戦いのゴングが鳴る前からコーナーできっちりガードを固めエンジンをかけ、ゴングとともに相手に向かって行った。毎ラウンドです。カッコいいですよね。だから彼はプロアマ通して負けが無いんですよ」と見る側の意見としてコメント。
これまでボクシングのグローブタッチについて書いてきたが、全ての打撃格闘技の実践者に対しイーファイトの吉倉拓児代表は「どの格闘技に限らずスター選手がグローブタッチをすると、若者はかっこいいと思って真似したくなるもの。ルールでゴング後のグローブタッチが義務付けられているのならまだしも、そんなルールはどこにもない。グローブタッチを一方的にやり、その油断からダウンやKO負けをする選手が出るのだが、無防備状態で技をもらうほど危険なことはない。余計なパフォーマンスでKO負けを喫し、取り返しのつかない後遺症の残る怪我に繋がりかねない。安易な真似は禁物」と警鐘を鳴らす。
吉倉氏が言うのは車の「だろう運転」に近い。車を運転している時、「たぶん、前方の子供は自分の車の前に飛び出して来ないだろう」と、そのままのスピードで運転するのが「だろう運転」。「たぶん、相手が攻撃を仕掛けてくることはないだろう」と油断する「だろう運転」は事故(KO負け)の元。「ひょっとしたら、相手が攻撃を仕掛けてくるかもしれない」と警戒するのが「かもしれない運転」である。ファイターは、常に「かもしれない運転」を心掛けていなければいけないのだ。
現役選手に話を聞いてみると、「試合前に挨拶は済ませたし、勝負は始まっているのだから必要なし。やるなら自己責任で」という意見がある一方、「お互い正々堂々勝負しようぜ!という意味でやっている」という肯定的な意見もあったが、「意識したことはない。自然とやっていた」と答えた選手がほとんどだった。他人(ひと)の試合を見ているうちに、自然と自分もやりだしたということなのだろうか。
今こそ戦いの原点回帰へ
プロボクサーの井上尚弥はスパーリングではグローブタッチをするが、試合中でのグローブタッチを私は見たことがない。鬼気迫る彼の試合、闘志溢れる緊張感は前日計量の対戦相手とのフェイスオフから既に始まっている。これぞオンオフ切り替え、見る側も試合ではスパーリングを全く感じさせない100%の真剣勝負に浸ることができる。
試合前はきちんとグローブを合わせて挨拶をし、ゴングが鳴ったら、親の仇のごとく全力を尽くして戦い、最終ラウンドが終了したら笑顔でグローブを合わせて健闘を称え合う。敵意が敬意に変わる瞬間だ。私はこの瞬間に戦いの美しさを感じる。
キックボクシングに関わりだして40年、スパーリングの前後でのグローブタッチを見続けてきたせいか、せっかくのハイレベルでスリリングな戦いが、グローブタッチひとつでスパーリングに見えてしまう。
賛成派も反対派もいるであろうグローブタッチ。たかがグローブタッチ、されどグローブタッチ。プロとしてピリピリした緊張感のある試合を観客に見せるためにもグローブタッチ無しの戦いを私は望む。グローブタッチが無くなったからといって反対する人はいないだろう。今こそ戦いの原点回帰を願い、このコラムを捧げたい。
<著者プロフィール>
大森敏範
1961年、東京都生まれ。
日本大学卒業。大学入学と同時にキックボクシング部入部。デビュー戦での 1ラウンド8秒KO勝ちは史上最短KO記録。『最強格闘技の科学』(福昌堂) にキックボクシング代表として登場した。
シオノギ製薬勤務後、日本初の格闘技専門スポーツカフェ「Fighting Cafe コロッセオ」を水道橋にオープン。
K-1公認審判員、K-1公認審議員を歴任。
現在、中高年のための キックボクシングイベント「NICE MIDDlE」を主宰。
2016年12月21日に「押忍」についての研究書、「押忍とは何か?」が三五館より発売された。
株式会社アスリートフーズ代表取締役。
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