【10月・ベストファイター】前澤智、大好きなMMAへの希望と引退試合での一本勝ち語る
毎月イーファイトが取材した大会の中から決める格闘技月間ベストファイター賞。2020年10月のベストファイターは、10月31日(土)に東京・ニューピアホールにて行われたDEEP事務局主催『skyticket Presents DEEP JEWELS 30』のメインイベントで、成長株の青野ひかる(27=ストライプル新百合ヶ丘)に1、2Rと攻め込まれながらも最終3Rに鮮やかな一本勝ち。DEEP JEWELSアトム級王座防衛戦を制して、自ら現役生活に幕を引いた前澤智(32=リバーサルジム 立川 ALPHA)に決定した。
PROFILE 前澤智(まえさわ・とも) 2012年にJEWELSでプロデビュー。18年12月に黒部三奈とのタイトルマッチを制し、第6代DEEP JEWELSアトム級王座を手にした。昨年7月にRIZIN初出場を果たすもハム・ソヒにTKO負け。同10月には富松恵美を相手に、DEEP JEWELS王座の初防衛戦で勝利して王者としての貫禄を見せる。 今年8月のRIZINでは、待ち望んだRIZIN元女王・浜崎朱加との対戦が実現。2Rにアームロックで一本負けを喫したが、熱戦を繰り広げて、ファンにインパクトを残した。 |
【選考理由】
引退試合で強豪・青野ひかる相手に 一本勝ちで王座防衛、有終の美を飾った
【選考委員】
格闘技雑誌Fight&Lifeとイーファイトの全スタッフ
受賞された前澤選手には、ゴールドジムより以下の賞品(アルティメットフレキシジョイントUC–Ⅱ 1個、マルチビタミン&ミネラル 1個、アミノ12パウダー 1個)と、イーファイトより記念の盾が贈られます。
ベストファイター記念インタビュー
今回の受賞の報告とともに試合を振り返ってもらったインタビューの冒頭。「やり残しなく、全てをリングに置いてくることができたのでは?」と尋ねると、前澤智は「そうですね、あれ以上はないんじゃないかとは思いますね」と柔和な声で答えてくれた。
MMAファイターとしてプロキャリア8年の集大成をこの日と決めてのぞんだ一戦は、自身が「格闘技と両想いになった証の結婚指輪」と語る、チャンピオンベルトをかけた防衛戦。しかも相手は次世代を担う存在として期待される青野ひかる。
これ以上ないシチュエーションだったが、試合はさらにドラマチックな展開に。前澤本人が「(引退試合として)あれ以上はない」と語るにふさわしい試合となった。
本人のコメントを交えながら、改めて試合を振り返ってみたい。
前澤は12年にJEWELSでプロデビュー。18年12月に第6代DEEP JEWELSアトム級王座を戴冠した。これまで黒部三奈、富松恵美、浅倉カンナ、ハム・ソヒ、浜崎朱加といった強豪と対戦を続けてきたなか、この一戦を最後に引退を表明。王座を懸けたラストマッチとなった。
対する青野は、全日本社会人選手権48kg級優勝などレスリングで輝かしい実績を残し、17年にMMA転向。ここまで9戦6勝3敗の戦績を持つ。昨年12月にハム・ソヒの妹分であるパク・シウにTKO負けを喫したが、再起戦となった今年7月のリオン戦では、進化を見せてパウンドでTKO勝利。キャリア3年で念願の王座奪取のチャンスを得ることとなった。
接戦を予想する声も多かったが、試合は開始早々から青野がタックルからテイクダウンを奪い、立ち上がる前澤を横投げで再び、三度とマットに叩きつけては漬けるという展開が続いた。いきなり劣勢を強いられた王者だが、前澤本人に焦りはなかったという。
「あえて押し込んでもらって、壁での展開を作るという作戦を(金原正徳)代表と練っていましたが、立とうとしても相手がフィジカルで寝かせてきたりして、そこはポテンシャルがすごいなと思いました。
でも、ここ1年半くらいはずっと3Rで試合を組み立ててきたので、1Rはこんな状態だけど、どこかで穴ができてくるんじゃないかなと」
相手が寝技に打撃を混ぜてこなかったことで、余計なダメージを負わずに何とか終われた初回。焦りこそなかったものの、試合中によぎる不安はゼロではなかったと、前澤は告白する。
「どこかでチャンスは来るだろうなとは思っていたけれど、一方で『ああ、ここで負けるのはイヤだな。キャリアが違うのに、私のほうが絶対に辛い思いをしているのに、蹂躙されて終わるのは絶対にイヤだ』と思ったりはしましたね」
2Rも、前澤がプレッシャーをかけ放った右ハイに合わせ、青野がタックルからテイクダウン。はた目には劣勢が続いたように見えたが、前澤にとっては「勝機が見えた」ターニングポイントのラウンドだったという。
「漬けられる展開が続きましたが、向こうが後半でフィニッシュを狙う動きが出てきた。スクランブルは自信がありましたし、そこについていって最終的に上を取る練習もしてきていました。実際、試合でもそれがだんだんハマってきて、上から打撃を落としたりできるようになりました」
ラウンド終了のゴングが鳴り、コーナーに戻りながらふと振り返ると、青野がその場に座り込んでいた。
「それを見たときに、『相手は疲れてきている。よし、3R目は自分が飛ばしていこう』と。そこで、改めて覚悟が決まりました」
8年のキャリアで積み上げてきた成功体験と、それは上回る痛恨の失敗体験。その積み重ねで研ぎ澄ませてきた勝負勘を前澤は信じた。そして、その勘は的中した。
3R早々、青野のタックルに合わせた腰投げで前澤がテイクダウン。ケージ際のスクランブルから青野の首を取った前澤がフロントチョークを仕掛けると、たまらず青野がタップアウト。3R 0分57秒、前澤は現役最後の試合で、劇的なフィニッシュをやってのけた。
「相手はレスリング出身だから、タックルを信じて仕掛けてくる。でも、勢いは少しずつ弱まっているように感じたし、また漬けられる展開になるのもイヤだったので、3Rは打撃を多めに、確実にダメージを負わせるほうへシフトチェンジしました。
フィニッシュの流れは、まず一度ニンジャチョークを狙ったんです。でも、相手は首に触れるのを嫌がって反応してきたので、上からギロチンの形でとりました。本来、MMAでは自分が下になるポジションを早い時間帯でやるのは賭けに等しいですが、『今が極めるチャンスかもしれない』ととっさに思って、下になるように倒れ込んで。その流れからギロチンまでつなげていけました。
終わった瞬間は『やった!』というより『よかった』という安心感でいっぱいでした。『最後に勝てて、よかった』と」
インタビューの冒頭で、「あれ以上ないんじゃないかな」と試合を振り返った前澤だが、実はコメントには続きがあった。
「でも、総合格闘技の大変なところは、やることが多いということ。それがやれるようになるとまた楽しくなって、分からないことがあると知りたくなって、知るとまたやって、それができるようになるとまた楽しくなって…と、中毒のように面白いことがずっと続くんですよね。
本当に辞めどきが分からないというか、ずっとずっと楽しいから、今までの出来事の何かが一つでも違ったら、たぶん引退していないと思います。それでも今、やめているということは、たぶん、きちんとやめるために1個ずつ材料が揃っていった、揃えていった日々だったのかなと思います」
その材料のなかには今年1月の結婚があり、練習を阻んだコロナ禍があり、練習再開直後に感じた「戦うこと」への怖れがあり、応援される人生から応援したい人生を送りたいと思う自身の心境の変化があり…引退の理由はひとつではないが、決断に後悔はない。
昨年3月のDEEP JEWELSで開会セレモニーのあいさつを任された前澤は、前日の国際女性デーに合わせて「私たち女性が職業として格闘技を選べる日本になりますように。誰もが目指せる舞台でありますように」とマイクで語った。
ほかにも、格闘技界や女子が戦うことについて滋味のある言葉は多い。頂点まで這い上がった不屈のファイトスタイルとともに、残した言葉も記憶に残り続ける女子MMA王者だ。
■受賞者・前澤智が喜びを語る
「今回、このような賞をいただけてすごく光栄です。中学から大学まで柔道をやっていたのですが、ずっと1番を取ったことがありませんでした。いつも2番で、あとちょっとという所で手が届かなかった。『1番になりたい』というのがMMAをやっている時も私の原動力でしたので、今回こうしてベストファイターに選んでいただけて、しかも(キャリアの)最後にこんな賞をいただけて、すごく嬉しいです」と喜びを語った。
なお、受賞した前澤にはゴールドジムからサプリ3種類が送られるが、前澤にサプリの摂取を聞いたとことろ「成分献血に行ったときに『血が軽いね』と言われたことがあり、貧血予防も含めて鉄や、ビタミンB、葉酸、ミネラルなどが混ざったサプリの錠剤を飲んでいます。 また、毎回ではないですが、きつめの試合の前にHALEOの『UP!』という製品を飲んだり、やるぞ!とエネルギーチャージしたいときにアルギニンの入った錠剤を飲んだりしていました。私はもともと身体が小さくフィジカルもなかったので、身体に入れる栄養も気をつけないと、と思い、サプリメントも活用していましたね」と自身の身体と相談しながら工夫して利用しているという。今回のプレゼントされるサプリにはゴールドジムの「マルチビタミン&ミネラル」(鉄やビタミン、ミネラルが含まれる)も贈られる。
(取材・構成=藤村幸代)
写真提供:DEEP事務局
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