【12月・ベストファイター】さらに飛躍した田丸辰、RISE世界-54kgトーナメント優勝で3階級制覇
■最愛の母が他界し、覚悟を決めて戦った準決勝
田丸の活躍を尻目に、「RISE WORLD SERIES 2023 -54㎏級トーナメント」の中心は優勝候補の志朗と大﨑一貴に集まり、クマンドーイの参戦で三つ巴と思われていた。田丸は大﨑に負けていることもあるが、上の階級への挑戦というハンデも含まれての評価となり、4番手という評価に甘んじることに。志朗と大﨑がライバルとして意識し合っていたことも重なり、決勝は2人の対決へと期待が高まっていた。
そんな中で準決勝の田丸の相手は、ライバルの大﨑に。対戦カード発表の記者会見で田丸は、「志朗選手と大﨑選手の決勝は実現しない」と断言し、公開練習では「RISEが2人を決勝で戦わせようとしていると感じがして、腹が立つ」と厳しく批判した。
反骨心を抱く田丸は、準決勝で大﨑と互角に戦い、最終3ラウンドに左を決めて優位に立つと、判定勝利をものにした。じつはペッシラー戦の直後に田丸は、最愛の母親が他界し、今回の試合の棄権も考えたことを告白。だが「世界一になると決めてリングに立ちました」と自分を奮い立たせたことも明かした。
■クマンドーイのうまさを体感、一歩踏み込む勇気
決勝で田丸を待っていたのは、志朗に勝ったクマンドーイだった。クマンドーイは、ラジャダムナンスタジアム・スーパーフライ級王座などのベルトを獲得しているトップファイター。ムエタイ組織の世界ムエタイ機構(WMO)が、クマンドーイをパウンドフォーパウンドの2位に選ぶくらいに評価が高く、とくにフルスイングで放つパンチは規格外のパワーを持っている。
田丸は、1ラウンドからクマンドーイの猛攻を受ける。蹴りからのフルスイングのパンチは、もらったら危険だ。この時、田丸は「想像していたのは、金属バットでフルスイングしてくるイメージでしたが、金属ではなかったです。あれだけフルスイングで打ってくるのでガードの上からでも痛いのは痛いんですが、金属ではない感じで大丈夫でした」と恐怖心はなかったという。
だが、「それよりも、うまかったです。向こうが蹴りを出してきたら受け返しを狙っていたんですけど、そこにパンチを合わせてきている感じでした」と田丸は、反撃ができないもどかしさが1ラウンドにあったと振り返る。
予想以上に距離が遠く、自分の攻撃がアジャストできなかったため、2ラウンドは勇気を出して一歩踏み込むように修正すると、決定的なシーンが生まれた。
■左のカウンターでダウンを奪う田丸の神業テクニック
田丸はクマンドーイのフルスイングが当たる距離に入り、勝負をかけた。するとクマンドーイは、近づいてきた田丸にローキックを放つ。その時だった。
田丸のカウンターの左が、クマンドーイのアゴを打ち抜いた。尻もちをつくクマンドーイ。レフェリーは、すぐにダウンを宣告した。立ち上がるクマンドーイの様子を見た田丸のセコンドは、「焦るな」と指示を送る。
一気に倒しに行きたい田丸だが、「倒しに行きつつ、冷静に戦うことを心掛けました」とクマンドーイの反撃に備えていた。ダメージはありそうだったが、ここで強引に倒しに行けば、試合を引っ繰り返される可能性もある。タフなクマンドーイを冷静に分析しての好判断となった。
ダウンポイントを奪った田丸は、3ラウンドに入っても守ることなく攻め続けた。その理由は「1ラウンドは取られたと思っていたので、もしも3ラウンドもポイントを取られてしまったら、延長になる可能性もある。今回の試合は、“後悔だけはしないで出し切ること”がテーマだったので、守りに入らず、すべて出し切りました」と明かした。
■「アンチに手のひら返しをさせることができて嬉しい」
最後まで攻め続けた田丸が、判定3-0で勝利。クマンドーイを倒し、RISE WORLD SERIES 2023 -54㎏級トーナメントを制した。顔をくしゃくしゃにして、TRY HARD GYMの仲間と喜ぶ田丸。不利の下馬評を引っ繰り返すために、オーバーワークになるほど練習で追い込み、どうなってもいいと思う覚悟でクマンドーイと対峙して、手に入れた栄冠。悔しさや苦しみが、すべて晴れていく瞬間だった。
きっと、天国の母も息子を誇らしげに思っていたはずだ。
最軽量級の田丸がやってのけた下剋上は、3階級制覇の肩書や優勝賞金1000万円という特上のご褒美を勝ち取ることとなる。だが、それ以上にすべての評価を引っ繰り返すことが、最大の喜びだったことだろう。
田丸は「これまで批判してきたアンチに、手のひら返しをさせることができて最高に嬉しいです」と批判をバネにしてきた結果が、最高のエンディングを呼び込んだ。
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