【よみもの・動画】限界を突破するトレーニング
木立裕之は極真会館全日本ウェイト制空手道選手権大会で3階級を制覇、2003年には本来は中量級の体重でありながら無差別級の第8回全世界空手道選手権大会で8位に入賞するなど、極真史に名を残す名選手である。
現在、極真会館東京城東支部葛西道場の責任者を務める木立は毎週木曜日、原田祐光(本部直轄浅草道場/第30回全日本ウェイト制空手道選手権大会軽量級優勝)ら現役選手とともに、驚くようなトレーニングを行っている。
それは「自分の基準値を上げる」ためのトレーニングで、言い換えれば体力の限界を引き上げるためのトレーニングだ。自分で作りがちな“限界”を突破するための方法を聞いてみた。
■第1章 カエル跳びで5km移動
木立は、強くなるためには「基準値を上げる」ことが大事だと言う。まずは、この基準値とは何か?
「物事には何でも基準があるじゃないですか。その基準も目指すレベルによって違ってきますよね。自分たちなら、世界大会で優勝することを目指しているわけです。世界チャンピオンの(エヴェルトン)テイシェイラや(タリエル)ニコラシヴィリのレベルと競り合っていくためには、彼らと同じ単位の基準でなければ最初から勝負になりません。同じ土俵に立ちたければ彼らと同じ基準にまで達しなければならない。それが基準値を上げるということなのです」
基準値を上げるためのトレーニングとは、『カエル跳び』を5km行うというもの。カエル跳びはその場にしゃがんで立ち上がる反動で前に跳び、それを繰り返して前へ進んでいく。垂直に上に跳べばジャンピングスクワットとなるが、カエル跳びは前に進むので回数を重ねても飽きないのと筋力も出しやすいことから選んだ。
「カエル跳び自体は珍しいトレーニング方法ではありません。全身運動の凄くいいトレーニングなので、選手のトレーニングとしてはスタンダードなものです。ただ、通常ならおそらく100mもやればかなりやっているとの感覚になると思いますが、この数値を1km、2km、さらに5kmにすると基準値が変わるんです。
ただ跳ぶだけだったら5kmどころか10kmでもいけると思いますから、2分間カエル跳びで競争したら、拳立て伏せを50~100回やってそれを1セットとします。それを大体20セットくらいやると5kmくらいになり、拳立ては1000~2000回くらいになります。上半身と下半身を一緒に鍛えるために、試合のないオフシーズンにやっています」
カエル跳びの効果は、格闘技全般に必要な足の筋力向上。「スタミナ、キック力、動きの速さ、体の安定感、当たり負けしない足腰の強さなど、下半身を強くすることは全てにおいて効果が高いと思います」
ただし、カエル跳びはあくまでもトレーニングのひとつであり、当然のことながらカエル跳びばかりやっていても世界基準には達しない。
「ひとつ基準値を上げると、ほかのウェイトトレーニングやミット打ちなど普段やっている練習の基準値も持ち上げやすいです。カエル跳びがあれだけ出来たのだから、この練習もこれくらい出来るだろうとポジティブに考えることが出来る。そうやって量が増えてくると身体が強くなり、次は凝縮した質の高い稽古に耐えうる基礎体力が付きます。これはよく道場生にも言うのですが、質の高い稽古に必要な体力をつけるために、まず量の練習をやる必要があるのです」
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■第2章 自分で作った限界を突き破る方法
しかし、カエル跳びで5km進むなど、誰でも出来るものなのだろうか。木立は「最初の目標設定次第。世界大会で優勝すると決まっているのであれば、その基準値を見ていかなければ目標に向かっていないに等しいので、選手をやると決めた時にはどんなきつい練習にも耐えられるし、前向きに取り組めるはずです。目標設定がしっかりしていれば出来ます」と言う。
「ただ、最初からは無理なのでそれぞれの判断に任せています。でも周りがやっていると、“自分もやらないと”という気になりますし、その中に入ってしまえばそれが当たり前(基準値)になります。引退した何十歳も年上の僕が一緒にやっていれば、若い選手は“自分はもっと出来るだろう”と思ってくれやすいでしょう。“5kmなんて無理だ”と言う人たちの中にいれば無理だってなりますけれど、みんなが飛んでいたら自分も必ず飛べるようになります。あとは本人のやる気次第ですね」
これは無理だと自分で作ってしまった限界を突破すること。それが「基準値を上げる」ことであり、さらに強くなるために必要なことである。
「ノミを箱の中に入れておくと、箱から出しても箱の高さまでしか飛ばないと聞きます。エレファントシンドロームってご存知ですか? 象がまだ子供の時に大きな杭につないでおくと、逃げ出すのは無理だと察して大人になって小さな杭でつないでも逃げ出さないそうです。筋力的には可能なんですが、それに挑戦しようという意欲がなくなるんです。何度も何度も失敗している経験が、賢い象だからこそ自分の中で“これは無理だ”という壁を作り、それに挑戦しなくなるんです。
人間はもっと頭がいいので、経験上、そういう壁をもっとたくさん作り出しているんです。それを“そうではないんだ”と。ひとつ突き抜けてしまえば他も同じように突き抜けられるんです。道場生は山ほど自分の中で殻を作ったり、限界を作ったり、線引きをしたり、枠を作ったりしていると思うので、それを突き破る考え方を設定してあげることが大事だと思っています」
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■第3章 稽古は昨日よりも1回増やす
では、もっと初心者向けに基準値を上げる方法はないのだろうか、聞いてみた。
「空手を始めたばかり、運動を始めたばかりの人に共通して言えることは、物事をやる時にいきなり高い目標設定でいっぺんにやろうとすると出来ないんです。例えば腕立て伏せが1回しか出来ない人が、明日は100回やろうとしても体を壊しますし、しんどいので続きません。
ではどうするかと言うと、まずは2回出来ることを目指します。これは大山倍達総裁の理論で、“稽古は昨日よりも1回増やす”と。昨日1回出来た人は、一晩寝れば超回復してもう1回出来る筋力が付いているんですね。だからそこで頑張ってもう1回やる。1回を2回にするのはそれほど難しいことではありません。そしてさらに翌日は3回やる。1回しか出来なかったことを今日は2回やる、明日は3回やると目標設定をすれば、1カ月経てば30回、2カ月経てば60回になります。そうやっていけば無理もないですし、継続することが重要なんです。
自分も10代後半から20代前半にかけて、階段ダッシュをやっていました。神社の階段で一番上まで70段近くあるんです。そこを最初は3~4本から始めて、1日1本ずつ増やしていったら1カ月で30本以上、2カ月経ったら50本以上になって、延々2時間くらいずっと階段を走っていました。とにかく毎日1本ずつ増やそうと、休みの日を作らないでやっていました。そのおかげでスタミナの土台が作れましたし、これだけ練習している人は他にいないだろう、延長になったら絶対に勝てるという自信になりました。
これは持論ですが、週1回5時間やるよりも、1日30分を毎日やる方が効果があると考えていたんです。会社員の時は残業が多く道場に行けない日もけっこうあったので、とにかく毎日練習しなくてはいけないと思い、家から会社まで往復40kmを走っていました。
カエル跳びも他のトレーニングと同様、必ず身体に負荷がかかります。それが痛みとして表面化する時もあります。大事なのはそこで諦めず、少し量を減らしてだましだまし続けること。人間の身体は追いついてきますから。無理をせず、身体をいたわりながらやり続けるとそこが強くなってきます。そうなるとたくさん出来るようになります」
木立の道場には、「継続こそ力なり」との言葉が書かれたパネルが飾られている。まずは1回、明日は2回、明後日は3回……地道な努力の積み重ねこそが、自分の限界を突破する、限界値をさらに上げるための近道なのだろう。
■極真会館東京城東支部葛西道場
住所:東京都江戸川区東葛西5-1-14第七片田ビル2F(東京メトロ東西線葛西駅より徒歩1分)
電話:03-6456-0178
URL:http://karate-kasai.com/
※東京城東支部は田端、舎人、亀戸、青戸、三ノ輪、北千住、西葛西、綾瀬、西新井、東十条、成立、小岩に道場があります。
極真会館東京城東支部 http://branch.kyokushinkaikan.org/joto/
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PROFILE
解説:木立裕之(きだち・ひろゆき)=右
1998年第15回全日本ウェイト制空手道選手権大会 軽量級優勝
1999年第16回全日本ウェイト制空手道選手権大会 中量級優勝
2000年第17回全日本ウェイト制空手道選手権大会 中量級優勝
2005年第22回全日本ウェイト制空手道選手権大会 軽重量級優勝
2003年第8回全世界空手道選手権大会第8位
2001年第2回全世界ウェイト制空手道選手権大会 中量級準優勝
2009年第4回全世界ウェイト制空手道選手権大会 中量級準優勝
極真会館東京城東支部葛西道場責任者
実演:原田祐光(はらだ・ゆうこう)=左
1989年12月20日、宮崎県東臼杵郡出身
身長164㎝、体重65kg
2011年第28回全日本ウェイト制軽量級3位
2012年イラン国際大会軽量級3位
2013年第30回全日本ウェイト制軽量級優勝
極真会館本部直轄浅草道場所属
正しいカエル飛びトレーニング
<解説>
講師:木立裕之 |
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