【月間ベストファイター・12月】扇久保博正、修斗世界王座を返上し挑んだ”覚悟”のRIZINバンタム級Tで執念の優勝
毎月イーファイトが取材した大会の中から決める格闘技月間ベストファイター賞。2021年12月のベストファイターは、12月31日(金)さいたまスーパーアリーナにて行われた『Yogibo presents RIZIN.33』での「RIZIN JAPAN GRAND-PRIX 2021 バンタム級トーナメント」準決勝で、井上直樹(24=セラ・ロンゴ・ファイトチーム)に判定勝利、決勝で朝倉海(28=トライフォース赤坂)にも判定で完勝し、GP制覇を果たした扇久保博正(34=パラエストラ松戸)に決定した。(2022年1月29日UP)
PROFILE
扇久保博正(おうぎくぼ・ひろまさ) 1987年4月1日生 岩手県出身 2006年に修斗でデビュー。翌年にはフェザー級新人王決定トーナメントで優勝し、その後修斗でフライ&バンタムの二階級制覇を飾った。16年にUFCの登竜門的な格闘リアリティ番組『TUF』バンタム級トーナメントで準優勝するも、惜しくもUFC契約を逃した。 18年7月よりRIZINに参戦、堀口と修斗以来の再戦で判定負けを喫するも、DEEPバンタム級王者の元谷友貴に判定2-1で勝利、続いて19年12月にRIZINバンタム級王座挑戦者決定戦で元パンクラスバンタム級王者の石渡伸太郎にも判定2-1の接戦を制した。 20年8月にマネル・ケイプが返上したRIZINバンタム級のベルトを朝倉海と争うもTKO負けを喫し王座に届かず、その翌年に修斗世界フライ級のベルトを返上。RIZINバンタム級トーナメントに挑みリベンジと優勝を果たした。 |
選考理由
1、優勝候補と言われた井上直樹、朝倉海を次々破り、RIZINバンタム級トーナメント優勝
2、朝倉海にリベンジを果たし優勝
3、トーナメント優勝への覚悟で修斗世界王座を返上し挑んだ
選考委員
格闘技雑誌Fight&Lifeとイーファイトの全スタッフ
受賞された扇久保選手には、ゴールドジムより以下の賞品(アルティメットフレキシジョイントUC–Ⅱ 1個、マルチビタミン&ミネラル 1個、アミノ12パウダー 1個)と、イーファイトより記念の盾が贈られます。
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贈呈:ゴールドジム
ベストファイター記念インタビュー
優勝賞金1000万円と、現RIZINバンタム級王者・堀口恭司への挑戦権をかけ、半年間にわたり繰り広げられた「RIZINバンタム級JAPANグランプリ(以下、GP=グランプリ)」。6月の1回戦、9月の2回戦を勝ち抜き、“大晦日決戦”に駒を進めた朝倉海、井上直樹、扇久保博正、瀧澤謙太(27=フリー)の4名の中で、もっともキャリアがありながらも最年長の扇久保を優勝候補にあげる声は、決して多くなかった。
優勝候補筆頭は、RIZINのスター選手であり、トーナメントを通じて「優勝は海外挑戦への通過点」と断言してきた朝倉、そして日本人史上最年少の19歳でUFCとの契約を勝ち取り、今回のGPでも初戦で実力者、石渡伸太郎から1ラウンドTKO勝利を収めている井上。ところが、決戦の火ぶたが切って落とされると、その2人をほぼ封殺する形で扇久保がトーナメントを制してみせた。
経験と豊富な練習量に裏打ちされた、圧倒的なグラウンドコントロール力や巧みな戦略はもちろんだが、扇久保は今回の記念インタビューで、戦いに臨む気持ちも勝因のひとつにあげている。
「(準決勝で朝倉海選手が拳を骨折したが)ケガを含めてのトーナメントなので、逆に僕が骨折していた可能性もある。でも、あの日の自分だったら折れていても勝っていたと思います。それくらい、メンタルもすべて勝つ方向に向いていました。なぜかは分からないけど、神様に感謝というしかないですね」
勝利の神がいるなら、今回の戦いにすべてを懸けて挑んだ扇久保の意志の強さと執念を汲(く)んだのかもしれない。このGPにたどり着くまで扇久保の軌跡を振り返ると、そう思わずにはいられないのだ。
■トーナメント開催発表前に愛着のある修斗のベルトを返上
国内バンタム級の精鋭16名を集めたGP開催が発表されたのは、昨年2021年3月。だが、扇久保はそれに先立ち、すでにある覚悟を表明していた。1月末の『プロフェッショナル修斗公式戦 2021開幕戦』の会場で、修斗世界フライ級のベルトを返上すると報告したのだ。
「修斗のチャンピオンはその階級で一番だと俺は思っています。それが証明できなかったので、このベルトを返上します。証明して、必ず修斗に戻ってきますので期待して待っていてください」マイクでそう語った。
「証明できなかった」とは、前年2020年8月の苦い敗戦を意味している。マネル・ケイプが返上したRIZINバンタム級王座を懸けて朝倉海と対戦したが、跳びヒザやダウン後のパウンドを食らい、わずか1ラウンド4分31秒、とどめのサッカーボールキックで手痛いTKO負けを喫した。同年の大晦日、今度は朝倉海が堀口恭司のカーフキックで大きなダメージを受け、1ラウンド3分足らずでTKO負け。ベルトは初代王者である堀口の腰に再び巻かれることとなった。
扇久保が修斗のベルト返上を決意したのは、この一戦を見た直後だったという。
「(20年の)8月に、自分は朝倉選手に何もできずに負けている。その朝倉選手に対して、堀口選手は逆に何もさせず勝ってしまった。『このままではいけない』とその時、思いました。僕の中で、RIZINではバンタム級(-61.0kg)で戦い、修斗では自分の持っているフライ級(-56.7kg)のベルトを守ると考えていましたが、堀口選手の試合を見た時に『二足の草鞋(わらじ)では絶対に勝てないな』と。だからフライ級ではなくバンタム級で、しかもRIZIN一本に絞ろうと思い、フライ級のベルトを返上したのです」
修斗王座返上からおよそ2ヵ月後、RIZINバンタム級GP開催が発表され、「扇久保は朝倉へリベンジした上で優勝し、堀口に挑む」という目標を果たす絶好の機会を得た。
▶︎次ページ:UFCを逃した男が元UFCファイターに抱いた思い、引退まで考えた屈辱の敗戦を払拭すべくGP決勝へ
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