【コラム】小池百合子都知事、20代に寄稿した海外空手事情(月刊空手道:1978年11月号より)
文:小池百合子
「カラテ人!?」
「カラテェー、カラテェー」
カイロの街を歩く私に、子供達ばかりでなく、大人達もが、こちらの気をひかんとして声を掛けてくる。以前は「ヤバーニ、ヤバーニ(日本人)」という声だったのだが……。
アラブ人は我々日本人が勝手に想像しているより、ずっと人なつっこい。なかでも、エジプト人は「おせっかい」と言われるほど、人間味溢れる国民性をもっているようだ。
エジプトの首都、カイロは人口八百万を越す世界第五位の大都会である。しかし、他の大都会が、一様に持っている人間砂漠の味気なさを感じさせない町だ。たとえ国土の九十%以上が本物の砂漠であっても。
一外国人である私が、街を歩いていると、ほとんどの人が、振り返ったり「カラテー」と言って、わざわざ危険な通りを横切って顔をのぞき込みに来たりする。私がいったい何国人かと、あてっこする仕末だ。
カイロ留学を初めた頃は、頭のてっぺんからつま先まで、ジロジロと見られることに、抵抗を感じていた私だったが、だんだん慣れ、そんな人なつっこい彼等と一緒に楽しむことにした。
彼等も、世界の動きに敏感で、国連で中国が承認された頃は、私はいつの間にか中国人になって「シィーニ、シィーニ(中国人)」と声を掛けられるようになっていた。
また、ある年、韓国の民族舞踊団がカイロ公演を行なった時には、「コーリー、コーリー(韓国人)」と言う具合で、結構バラエティーに富んでいた。
七十三年頃だろうか、ちょうど第四次中東戦争が起る頃、カイロをはじめ、アラブ諸国で、例の空手映画が爆発的にヒットしはじめた。その頃からである。ヤバーニや、シィーニから「カラテ人」に昇格したのは。
下町などを歩こうものなら大変だ。子供達が、空手の真似をし、私にむかって飛びかからんばかりに駆け寄ってくる。時には本気でかかってくる子供もいたり、散歩していても気が休まらない。
日本人とみると、すべての人が、空手が出来るものだと信じているようだ。そんな彼等に「知らない」などと答えようものなら失望の意をあからさまに見せる。その時、私はまるで、日本人の資格を失ったような気になった。
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