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まるで空手版スクールウォーズ!ボコボコにされ全敗から創部30年で関東大会制覇!”初心者”空手先生の奮闘

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2025/06/15(日)UP

創部30年、関東大会で初優勝した保善高校の選手たち

 6月6〜8日に開催された『54回 関東高等学校空手道大会』(主催:高体連/京王アリーナTOKYO)にて保善高等学校(東京都新宿区)が初優勝を果たした。ここまで部が成長したのは昨年3月に空手部監督を退任した奈佐有記氏(なさ ゆうき=59)の存在があった。彼は30年前、保善高校で空手部を創るため和道流の東原重治師範のもとで空手を始め、翌年空手部を創設。ヤンチャな生徒や腕っぷしが強くなりたい生徒が入部したが、合宿や練習試合ではボコボコに。そんな弱小空手部を一体どうやってここまで成長させたのか。 

奈佐有記元監督。空手初心者ながら空手部を創設。30年で関東優勝を果たした(本人提供)

◼️30歳で空手を始めた”初心者”空手先生が空手部を創部

 保善高校において、空手道部を長きにわたり牽引してきたのが奈佐有記(なさ ゆうき)監督だ。2024年3月をもって空手部監督を退任、現在は同校で教頭を務め、空手部に熱い声援を送る側へ立場を移している。

 奈佐先生は、大学時代に躰道部で活動していたが、空手は未経験だった。しかし30歳の時に武道教育のために空手部を創設しようと空手道場に入門、1年半後、黒帯を取得するタイミングで空手道部を創設した。

 やがて5期目から関東大会に出場するまでに成長し、2014年、創部18年目にして団体組手でインターハイへの出場を果たす。インターハイ予選都大会決勝の相手は、幾度となく戦っている世田谷学園高校だった。それまで全国で15回も優勝している強豪校だが、その世田谷学園高校を破って初優勝を果たす。これは、保善高校にとっても、部員たちにとっても大きな転機となった。

■まるでスクールウォーズ、ヤンチャな子らが入部、他校にボコボコにされ負け続けるも徐々に勝利へ…その変革とは

創部から5年、2001年の関東大会では初戦敗退だった。右から2人目が奈佐監督、中央左は東原師範、右は当時指導に来てくれていた師範の後輩の横溝正典先生(本人提供)

 2014年のインターハイ出場は、才能ある選手たちが揃ったのも偶然ではない。
 創部当時、空手部の生徒は初心者ばかり。生徒にまずは道着の着方を教えるところからのスタートだった。入部動機は男子校で腕っぷしが強くなりたいものや、ヤンチャのあまり、違う道にそれないように担任の先生から入部をお願いされた生徒もいた。そんな生徒をまとめて空手を教えた。

 しかし、いくら指導しても生徒たちがそれを心から自覚しなければ伸びないし工夫もしない。そこで東原師範の紹介で創部2年目から茨城の土浦日大、晃陽学園などの強豪校と合同合宿を毎年行った。歯が立たずボコボコにされて帰った時もあった。奈佐先生は「見ていてこちらも辛くなりました。実力は天と地の差、団体戦でも、当たり前ですが誰も勝てなかったんです。とにかく土浦日大の選手たちは当たりが強かった」と振り返る。しかし生徒たちは辞めずに付いてきてくれたという。生徒たちも自身の弱さと足りない部分を自覚し強くなっていったのだ。

 以降、保善高校は学んだ技術を取り入れ、徹底したフィジカル向上と気持ちの出し方という肉体と精神のトレーニングに励んだ。合宿の後、都大会に出ると生徒たちは相手の圧力が軽く感じたという。

夏は千葉県の岩井海岸で、単独合宿を実施していました。恒例となっていた最終日朝稽古後の海飛び込みの様子(本人提供)

 実力がついてきた空手部、強化指定部として学校から認可されたのは創部から12年目の2007年。中学から推薦で空手部に入部できるようになった。しかし「まだ無名の空手部に推薦で入ろうなんて生徒はいなかったです」という。推薦選手は強豪校に進学してさらに強くなり、全国でも活躍していきたいだろう。しかし奈佐先生は諦めず、各道場の師範の方々を周り、ネットワークを作って数年でようやく推薦選手が入ってくるようになりました」と有力な選手を獲得できるようになり人材が揃っていった経緯を語る。そしてその後もチームがステップアップする過程で、各部員が所属する道場の先生方や、ご縁のあった当時の日本代表選手を招いて技術面の補強を重ねていった。 

■空手の研究と教育で大学院に進学

創部13年目、全国選抜は2回戦で敗退(本人提供=東京体育館)。

 奈佐先生は筑波大学大学院に進学し、2022年に博士前期課程を修了。修士論文では、高等学校における空手道の“基本稽古”の意義に着目。空手の伝統的な基本稽古と現代の組手競技の関連性について研究した。高体連の先生方の協力を得てアンケート調査を実施した回答結果では、基本稽古がスピード、パワー、バランス養成にとても適しているという意見の中で、なんと「極め」が良くなるという意見が96.8%にのぼった。

 他格闘技のキックボクシング、ほかスポーツの野球やサッカー、水泳には「極め」という要素がない。空手や武道に求められる「極め」を有する基本稽古は武道独特のものだ。

 この研究を通して、「極め」に象徴される体の使い方や締め方などの武道的要素と、そこから生まれる精神性を見出した。フィジカルが重要な空手競技に、武道教育要素をあわせて教えている。
 論文は現在、研究誌への掲載申請に向けて再構成中である。

2017年、創部24年目、全国高等学校空手道錬成大会で優勝(本人提供)

 この武道教育から空手の選手や保護者は「奈佐先生のために勝ちたい」と語る。これは代々の部員たちも口を揃える。奈佐先生は、指導者でありつつ、常に選手たちと同じ目線で汗を流す存在だった。打ち込みにも自ら進んで参加し、全国大会では教頭としての多忙な業務の合間をぬって夜行バスで1人現地へ向かう。その姿勢は、生徒・保護者・卒業生から絶大な信頼を集めている。これも武道の精神性のゆえんだ。

 現在のチームが形成された背景には、東京都をはじめ各都道府県の上位選手たちが、保善高校の練習環境に魅力を感じて進学してきたことがある。口コミで広がるその魅力は、「強くなる」ことだけでなく、「人生が豊かになる時間」を過ごせる場所としての評価。保護者同士、仲間同士のつながりも強く、競技と教育が理想的な形で融合する稀有なチームである。

 そして6月14、15日、空手道部はインターハイ予選を迎える。出場できるのは東京都代表1校のみ。伝統校・世田谷学園高校は、今回の関東大会で3位に入賞したが、関東大会予選では保善高校が敗れている。互いに一歩も引けないライバルであり、侮れない強敵である。この1週間で、どのような準備を行い、どう戦うのか。高校生たちの青春をかけた激闘の予選は、今年も全国各地で熱いドラマを生むだろう。

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