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第7回 左を制する者は世界を制すーー魔裟斗の技術の巻

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■ステップイン・アウトを用いて反応を見る

 魔裟斗にとって復帰第二戦となるこの試合。魔裟斗の復調ぶりを観るには最適な相手ではない だろうか? 打撃が得意であるとはいえ総合を主に闘うイアンは、回転力の速い連打以外にこれといった武器はなく、リーチも短くステップも使わない。魔裟斗 組み易しの相手だからである。

 ローのカットに難があり、ジャブとローのコンビネーションで攻められては、タフなイアンにも荷が重すぎるのでは? というのが戦前の私の予想であった。

 立ち上がり、イアンの連打を警戒してか慎重に攻め入る魔裟斗。どんな相手でもステップイン・アウトの出入りで相手の反応をうかがい、しっかり攻撃の間を作り出そうとするあたりは、いつも通りの磐石の試合展開。

 現在の国内のファイターで魔裟斗のようにステップイン・アウトを用いて反応を見る選手は、魔裟斗以外には宍戸大樹と山本真弘しかいない。

 あの鋭い出入りは練習の賜物であることは間違いないが、このステップがあるからこそ 自分の距離をしっかり作り出し、闘いのイニシアチブを奪うことが可能なのである。

 ヘッドスリップに優れる魔裟斗が自分の距離をしっかり保とうとするのであるから、勝率も良くKO負けが少ないのも当然のことであろう。

 試合の方は、いつもの切れ味鋭い左ステップインの効いたジャブと右ローを切り口に、試合の 主導権を確実に握っていく。何度観てもステップインの効いたノーモーションに近い、素晴らしい左ジャブである。この左ジャブがステップイン・アウトと共に 魔裟斗の強さの源であると私は観ている。

 キック界では、まずお目にかかることのできない左ジャブである。今まで数十年間もキック系の試合を観戦しているが、これほど精度の高いジャブを身に付けている選手を私は記憶していない。
 
 後ろ足のキッキングがよく効き、パンチの予備動作(後ろへ引く等)がないため、最短距離で顔面を捉えることが可能である。そのため、右クロスカウンター やヘッドスリップからの右カウンター、もしくはスリップからの左フックを貰う可能性も限りなく低い。

■魔裟斗の相手がディフェンシブに見えるのは…

 この様に読みにくい、いや読みきれない左ジャブを用いて気を散らせ、右ローもしくはワンツーへとつないでくるのだから、対戦相手は自分の攻めを考える余裕もなくディフェンス主体に闘わざるを得ない。

 魔裟斗と試合をする選手は、2Rあたりからステップイン・アウトと左ジャブに幻惑されて、終始ディフェンシブに見えるのはこのためである。非常にオーソドックスで基本的な動作を土台に試合をするお手本のような選手である、というのが私の魔裟斗評である。

 リング外の派手なパフォーマンスに目を奪われ、試合も派手な攻撃で…という固定観念を持ちやすいが、豊富な走りこみに支えられた基本的な攻め方、無駄のないパンチのフォームは ぜひ他のキック系の選手も参考にしていただきたい。

 見よう見真似で前後のステップイン・アウトを練り上げ、後ろ足を効かした後ろ足キッキングのノーモーションジャブを徹底的に鍛え上げるだけでも、かなりの戦力UPにつながるのだから…。

 私も現役時代、上背がないにもかかわらず左ジャブを多用した選手の一人であったが、ジャブなくして国際戦で勝ち残ることはなかなか出来るものではない、というのが自論である。

 魔裟斗の試合ぶりを観ていて改めてジャブの重要性を再認識し、世界に羽ばたかせる選手を育てるには、しっかりとしたステップワークとジャブを身に付けさせることが最速の近道であると思った。

「左を制す者は世界を制す」ーーこの言葉はキック界においても大きな意味合いを秘めている。

(文中敬称略)

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