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第5回 総合におけるボディブローの有効性 の巻

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写真提供:DSE

■ボディが盲点になることは避けられない?

 総合格闘技におけるボディブローの有効性を、私なりの観点から述べさせていただきたい。

 前回のPRIDE武士道の試合では五味、桜井両選手共にボディ攻撃を実に有効に用いての見事なKO勝ちであった。

 五味の右ボディフック打ちから顔面への右フックの返し、もしくは左レバーからの右ロングフック、桜井のパンチ・キックによる上下の攻撃の揺さぶりから虚をついての左レバーブロー。

 共に理にかなった相手の虚を突いた素晴らしい攻撃であり、私自身が初めてみた総合の闘いにおけるボディブロー(パンチによる)を効かしてからのKO勝ちであった。(ヒザ蹴りによるボディへの攻撃を有効に活かしてのKO勝ちは見たことはあったが…)。

 この2試合は特に、総合格闘技における打撃技術の進捗度合の速さを痛感させられた試合であった。

 総合の選手との打撃スパーリングの経験論から言えば、確かに総合の選手はボディ攻撃には不慣れであり、打たれた経験がほとんどないため、打撃の選手以上に効くのは周知の事実であり致し方ないことであろう。

 その時のスパーリングでは出際(パンチ/タックル等への入り際)への前蹴りストッピングの カウンターや、左レバーブローが非常に有効であったと記憶している。 ただ、クラウチングスタイルでのタックル狙いのために染み付いた構えのせいか、上体が折り曲がっているためボディストレートは打ち難かった。(※アップス タイルで構える選手であれば有効だが、総合だとアップスタイルはタックルで崩されやすいためか その構えをとる選手は少ない)

 元々、総合の試合における攻撃部位は、打撃面では顔面(上段)へのパンチと足(下段)への ローキックが大半であろう。 何故なら、ミドルキック(中段)などは足を取られやすいことが懸念され、全体的に攻撃技としての頻度は少ない。そのため、試合中は上・下に大きく気を集中 させていることが多く、その癖が自然と染み付いているのが想像以上にボディが効く要因ではないだろうか? と私は考えている。

 要するに、自らボディ(中段)に虚を作り出してしまっているということである。虚をつかれた打撃による攻撃は、普段効くことのない子供のボディブローでも効く(経験談)。

 それ故、仮にボディ等の打撃単体に慣れる練習を実践したとしても、この虚を作らない闘い、もしくは技術を身に付けないことには、他の格闘技系に比べてボディが盲点になることは避けられないのではないだろうか?

写真提供:DSE

■すべての打撃への警戒心にも限界がある

 また、ボディに虚を作り出す原因として、もう一つあげさせてもらうならば、やはり総合競技における勝敗のポイントはどちらがテイクダウンを取るか、という事が大きな勝敗の分岐点になる。

 そのため、バランスを崩されない、足を取らせない、もしくはいい差し手(組手)を取らせないという事にも過敏に神経系が集中する。そのような状況下で は、すべての打撃への警戒心にも限界があり、顔面へのパンチ等に注意を払う以外は、他の打撃等には無警戒に近い状態(虚)を作り出してしまう。それらが自然に染み付いていることも、よりボディ打ちが効く要因の一つである、と私は考える。

 最近の総合格闘技における試合展開において、タックル等を切る技術の発達や、膠着ブレイクのルール変更等により、非常に打撃重視の傾向になりつつある。

 そのような中で、より効果的に相手に効かす攻撃を身に付けていることが、勝敗の大きな鍵(ポイント)となり得る。

 以上の事から、総合格闘技の打撃分野では使い手の少ないボディブローの技術を習熟し、修得 することは近い将来、総合格闘技におけるトップ戦線への参戦に非常に重要な技術となってくるのではないだろうか? だからといって 容易にこの技術を身に 付けられるものではないが…。

■効果的なボディブローを放つ3つのポイント

 大抵、総合の試合は遠距離の展開から試合が始まり、その遠間からステップインしてパンチ等の攻撃を用いてから、タックルを狙うスタイルが主な攻撃パターンゆえ、ボディブローを打ちやすい距離になりにくい。

 また、ボデイの距離は恰好のタックルの間合いというか 組みの間合いゆえにすぐクリンチされる可能性があり、なかなかボデイ打ちを行う間・機会・リズムを得ることができないからである。

 このような中で効果的なボディブローを放つには、

①パンチ単体に相手がついてこれないだけのスピード感と軌道の読みにくいフォームを養う。(パンチのスピード養成には、つま先の力が重要。軌道には3cmスライドして打ち込む等)

②鋭く且つそれでいて柔らかいスムーズなステップイン(踏み込み)を身に付ける。(柔らかいステップインには上下動の少ない踏み込みを研究すると良い)

③上・下のコンビネーションで相手の気を引きつけ、攻めの間の虚を作り出す。そのためにはローキックの修得が必要不可欠。(切れるローには足の引き=ターンが重要)

 以上3点をしっかり練り上げることが重要なポイントであろう。

 ①~③のボディブローへの布石を念入りに磨き上げ、その上でボディブロー単体の技を練磨すれば、総合の間合いやリズムにおいても 有効なボディブローを放つことは可能となり得るであろう。

 今後の総合の試合において、どの選手がこの未開拓で将来性を秘めた技術であるボディブローを有効に活用し、勝ち上がってくるのか非常に楽しみである。それがその選手が私の指導した選手であれば、言うことはないのだが(笑)。

(文中敬称略)

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