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第8回 佐藤に対する研究が間違った方向へいっていたのではないか? の巻

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■細身であるにも関わらず強い前に出る圧力

 2月4日の『K-1 WORLD MAX 2006~日本代表決定トーナメント~』で圧勝した佐藤嘉洋。長身を利した圧力を活かしてパンチ・蹴りを有効に使い、対戦相手を徐々に痛めつけていく堅実 なファイトスタイル。対戦相手は成す術もなくペースを奪われ、ワンサイドの判定負けを屈している。

 佐藤の主武器はテンカオ気味の左右のヒザ、もしくは片手で引っ掛けてからの組み際の首ヒザ、そして左右のローキックといったところでありパンチはない。ヒザ蹴りやローキック共に切れ味はなく、かと言って一発で効かせるほどの重さも迫力もない。

 しかし、対戦相手の多くはローやヒザで効かされていることが多い。なぜ見た目にはそんなに大したことがない様な蹴りが、威力を発揮するのであろうか?

 魔裟斗のような精度の高いコンビネーションやパンチの切れを持ち合わせていないのに、なぜ相手は嫌がるのであろうか? 

 それは手足の長いリーチを存分に活かし、かつ細身であるにも関わらず、意外に強い前に出る圧力・粘さであると私は観ている。

 長身の打点が高いタイプを前にすると、どんな者でも全体が大きく視界に入るために胴体がよ り長く目に映るものである。この胴体が長く映る者と相対すると、その長さに捕らわれ、パンチや蹴りが非常に視界から外れやすくなり、どこから打撃が飛んで くるか分からない状態になるのだ(経験談)。

 苦杯を舐めた対戦相手の多くが、これほどの身長・リーチ・前に出る圧力の強さの選手と対したことがないため、佐藤に横綱相撲をとられて敗れているのが現実であろう。

■ウィークポイントは八の字に開いたガード

 対戦相手の多くは戦績不足であることは紛れも無い事実ではあるが、果たしてそれだけが敗因であろうか?

 対応力のなさも敗因のひとつではあるが、佐藤に対する研究が間違った方向へいっていたのではないか? と私は思っている。

 佐藤のウィークポイントは、やはり八の字に開いたガードの隙間であろう。あそこを狙わないのは、私に言わせれば最大のチャンスを無駄にしている。

 前に出てくる佐藤を退いて退いてバックステップで誘い込み、左右のアッパーを狙いたいところだ。

 K-1では誰の目にも分かりやすい軌道の大きなパンチを採点基準にする傾向が今までの歴史の中であり、派手なアッパーは判定にも非常に有効である。

 おそらく、元々佐藤は鼻血が出やすいタイプ(?)であると思われるので、コツコツ当てていくことで攻勢差をアピールしたい。

 特に長身選手へのアッパーにおけるポイントを私の経験から述べさせてもらうと、拳は返さず 縦拳で打ち抜く方がよい。拳を返すと大抵は上腕二等筋に力みが生じ、こちらに引き寄せる力がパンチの正確性を阻害してしまう。うまく相手の顔面を捕らえら れないだけでなく、相手の返しに対して反応がワンテンポずれこみ、致命傷を貰いかねない危険性が増すからである。

 その点、縦拳で打つアッパーは二頭筋に力みが生じず最大限、裏筋肉と言われる三頭筋を活用 できるため、パンチが伸びより正確性が増すのである。また三頭筋を活用すると、呼吸のリズムを阻害しにくく息も上がりにくい。佐藤はアッパーの天敵である ストレートを返してくることも合わせてくる技術もないので、思い切ってアッパーを放つ間合い・呼吸を作ることが可能だ。

 このアッパーと平行して、ワンツーなどからの右ローキックが欲しい。ワンツーは顎を狙うというよりはあのブロッキングの上をわざとプッシングで狙うことがポイント。即ちパンチをブロックの上から打つことで相手の圧力を緩和させ、そこへローを放つのである。

 通常の蹴りやパンチに対しては、佐藤の得意中の得意である「ブロッキング後→リターン ロー」を貰ってしまい致命傷となりかねないが、この様にややプッシュ気味にブロックの上から意図的に攻撃(パンチ)されると、意外にも返しの反応が0.5 コンマほど遅れ、相手に返すタイミングが微妙にずれるものである(私も現役時代、よく長身の選手との対戦に使用した)。微妙にずれた蹴りは威力を抑制さ れ、万一クリーンヒットしても効くものでもなく、また非常に技の起こりがよく見えるものである。

■ミドル及びローの蹴り合いに行ってはいけない

 この2パターンの攻撃をしっかりと反復練習で行い、柔らかいバックステップと大きな回り込みが可能なスタミナをしっかり練り上げ活用すれば、勝機は自ずと開けてくるであろう。

 あの手のタイプの選手と対した場合、行ってはいけないのはミドルの蹴り合い、及びローの蹴り合いである。

 蹴りに対しては重心が伸びずピンポイントに小さく返してくるので、こちらの重心を逆に上げられ、それだけでイニシアチブを奪われてしまうだろう。

 蹴りからではなく、圧力のある長身選手と対したときは、パンチ、それも右ストレート/右 アッパーを中心に少しプッシュ気味なパンチで相手の上体をやや押し込み、相手を伸び上がらせて気の無い下段にローを叩きこみたいし、叩きこむからこそ効く のである。また 相手の返しをもらいにくい間・リズムを保持できるのである。

 それぞれ各々が持っている武器や体、そして考え方などが異なるのも承知している。しかし、一度今までの戦い方から違った側面からの対応などを考えると、意外に答えは落ちているものである。

 私がここで述べた対応策が必ずしもベストであるとは断言はできないが、このようなパンチの打ち方からの対応策を是非参考にして、各自、打倒・佐藤対策の布石となれば幸いである。

 私見ながらこの佐藤を倒せるのは、国内には二人しかいないだろう。それは同じK-1 MAXのリングにあがる魔裟斗とシュートボクシングのエース宍戸だけである。

(文中敬称略)

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