TOP > 吉鷹弘の打撃研究室 一覧

第10回 ブアカーオVS宍戸「15秒」に隠された敗因の巻

■ウォーミングアップが長すぎた?

 誰がこんな結末を予想したであろうか?

 戦前の私の試合予想は、100回やっても100回勝てないと非常に厳しい見解であったものの、フルラウンドの判定決着は堅いと踏んでいた。なのに結果は周知の通り1R15秒、左フックのカウンター一発で沈められてしまった。

 何が原因だったのだろうか? 帰りの道中ずっと試合を分析していた。

 私はこの試合の3週間前に上京し、久々に宍戸とマススパーなどを行った。その時の宍戸は以 前の甘い防御技術ではなく堅固なブロッキングを確実に備えており、この防御力ならKO負けは回避できると見ていたが…。ミット練習においても、元ブアカー オのトレーナーであったダム氏の厳しい指導のもと日本最高レベルとも言える自身のスタミナをより増加しており、後半戦3Rまで試合を持ち込めたら…とも 思っていた。

 試合当日の宍戸の様子は、幾分硬い表情には見えるものの、メラメラと燃え滾っている顔を側で見ていてさらに期待が高まった。ただウォーミングアップのシャドウ・ミット打ちの動きに柔らかさと切れを備えてはいるのだが、 試合前のウォーミングアップにしては 少しハードで長すぎるのではないだろうか? と思っていた。何故なら私の試合前の3~4倍近くのアップ量をこなしていた程だから…。

■冷静さを失っていた宍戸は危険な間合いに

 いざゴングがなるや、律儀にグローブを合わせにくるブアカーオに対して、宍戸はそれを拒否して一気に懐へ飛び込み得意のコンビにつなげていった。

 ブアカーオと同様に宍戸も律儀で礼儀ただしい男である。その宍戸が闘い前のグローブ合わせを拒否してラッシュするわけがない。この時点で宍戸は冷静さを失い、ブアカーオの危険な間合いに誘われてたいたのであろう。

 間合いというものについて、少し事例をあげて述べてみたい。

①自分の技術で隙などを作り出して入り込んだ間合いというものは、相手の攻撃が見えやすく反応もしやすい。

②相手に誘いこまれたり、もしくはフロック的に入れたものは、相手からの攻撃も非常に見えにくく、こちらの攻撃が届かない。(経験談)

 宍戸はこの試合で②の状態に陥ってしまったと私は観ている。戦前、宍戸に残した私のブアカーオ対策はジャブと前後ステップを有効に使って切り崩し、日本でここ数年蹴りこまれていない右ローをコツコツ当てていくことであった。

 右ローが出せなくても、せめて左ジャブとステップさえ使っていればもう少し長いラウンド戦 えた?のではないだろうか。 フック系のサイドからの攻撃や右ストレートには非常に類稀な防御技術を魅せるブアカーオである。私はジャブを有効に使うのが得策と分析していたが、冷静さ を欠いた宍戸は普段あまり見せることのない左フック→右ストレートを繰り出していく。

 前後の微妙な動きにより、スウェーを上手く用いるタイ人には フック系ならヒットするので は?  という気持ちにさせられ、自然にドローイング(フックの誘出し)されてしまう。宍戸はブアカーオの技術、いやムエタイの持つ闘いの空間・間合に誘導されて しまった。その為に、不用意な左フックからのリードを出させられたのである。

 誘い出されての左フックは当然動きを読まれ易く、完璧なタイミングでカウンターを取られた技術的な要因であろう。

 結果論ではあるが、もう少しウォーミングアップをソフトに行っておけば自身のエンジンのかかり具合も遅く、慎重すぎるほど間合いに敏感になれたのではないだろうか?

■ワンツーを使っていれば流れは違った

 ここで以下の二つのワンツー式パンチを検証してみたい。

a・左フック→右ストレート
 パンチ間のつなぎがやや遅い。タメが効かせ易く、シフトウェートしやすい。
b・左ジャブ→右ストレート(ワンツー)
 パンチ間のつなぎが最も速い。スピードや打った後の手の戻し(防御)に優れる。

 当然、bの方がパンチ間の【空き隙】を短くでき、体の中に捻り動作(ねじり)を生じさせないためスピードも速い。

  もし宍戸が通常のワンツーを放っていれば、左フックを完璧なタイミングで打ち込まれることはなかったであろう。左フックへの左フックカウンターは、やや上 体を左にスライドさせながら自然に柔らかく出すことができるため、タイミングも合わせやすく肩の回転も使いやすい。そのため一発で相当な威力を秘めてい る。

 しかし、ワンツーでこられると初めのジャブに左フックを同様に合わせていくわけだが、上体 を左スライドさせながら、相打ち気味に合わせるにはタイミングが自然とワンテンポ遅れがちとなる。また重心を上げられ、カウンターの左フックにウェートが 乗らない=パンチが効かない。

 格闘技に「もしも」はないが、あの試合前に戻れるのならばステップを効かしたジャブ、ワンツーをより練り上げ叩き込んでいればあのムエタイの間合いに誘いこまれずに凌げたかもしれない。

 今の宍戸には前後のステップ・インバックは無理だろうが、速い脇のしまったワンツーであれば試合で用いることも可能であったであろう。

 宍戸にはこの試合結果を糧とし、鋭いワンツー、そしてステップの効いた左ジャブの練磨に励んでもらいたい。それが不可能ならばMAXの外国人選手に勝つことは難しいだろう。

(文中敬称略)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

TwitterでeFight(イーファイト)格闘技情報をフォローしよう!

TOP > 吉鷹弘の打撃研究室 一覧