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第6回 山本“KID”徳郁ーーその強さの理由の巻

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■KIDに読まれていた須藤の蹴り

 試合結果は周知のとおり、1RにKIDが得意の、右ストレートをダッキング→右フックのカウンター合わせからのパウンドによるTKO勝ちである。

 変則ファイターで、頭脳的に過去の試合データを分析しながら対応策を念入りに毎回練り上げてくる須藤ではあったが、対応空しく重々承知のKIDの十八番に粉砕された。

 私の試合前の予想では須藤有利としていた。では、何故有利としたのか?

 一つ目は、須藤自身が自ら右ストレートで入っていくことをあまりやらないからである。右から入れば九分九厘、KIDは小ダッキングからの右ロングをかなりの正確さで当ててくる。 須藤ならばそのベストパンチをしっかり読み、「危ない橋は渡らない」戦法を取るだろうと過去の他の試合から想定していたからだ。

 二つ目に、須藤はどちらかと言えば半身に(ハス構え)構えて闘うタイプである。ハスに構えると非常に横(フック系)からの攻撃を見切りやすく、得意一本槍の山本の右フックを十分かわせると予測していたからだ(事実、何度かは肩口にパンチをうまく逃がしていた)。

 序盤、須藤はロングの間合いから前蹴り・右ミドルを多用しながら蹴りで活路を見出そう、 ペースを奪おうとする。それゆえ、蹴りの効きやすいシューズを着用していた。しかし、蹴りのモーションが大きく(須藤は蹴りの初期動作で体が思いのほか開 く癖がある)踏込みも鋭さがない大きなステップであるため、蹴りを出そうとするも容易にKIDに読まれ、バックステップと捌きの共用で捌かれて足を掬われ たり、足払いで崩されていた。

  KIDのようにステップを使いながら捌きを用いてくる相手には、なかなかボディへの蹴りは効かないし足を掬われやすい。格闘技にもしも(if)はないが、 04年の大晦日に魔裟斗が見せたようなジャブフェイントからの右内ロー、もしくは右の小フェイント(大きく出すと右フックを合わしにくるので)から左ロー の下段の攻撃が欲しかった。

 ローはミドルと違って特に総合系の選手には捌きづらく、足も掬いにくい。序盤にコツコツとローでしっかり足を蹴っておけば、KIDのあの絶妙のタイミングの右フッククロスも20%以上はリズムを崩すことができたであろう。

 大抵20%でもリズムが壊れれば、フックはテレフォン動作となり読みやすくなるものである (経験談)。また、大きく須藤の周りをサークリングしているKIDは、当然ラウンドを重ねればスタミナを浪費するだろうし、人間疲れが生じると必ずどの選 手も集中力等が散漫になってくるものである(疲れがKIDの一本槍の右の攻撃を蝕み威力を抑える)。

 ローのダメージとステップ多用によるスタミナの浪費を念入りに待ってから、じっくりと須藤は勝負をかけたかった。

■KIDの右を支えるフォームと動体視力

 しかし、あの須藤の右ストレートだけは何度ビデオを観ても…納得がいかなかった。せめて右で入っていくのであれば、十分に左スライドダックしながら右クロスに備えた右ストレートを打ち込んで欲しかった。そうすれば展開も変わり、須藤ペースに傾いていたかもしれない。
 
 ただKIDには、相手に悟られていても右ストレートを出させる、誘い込む目に見えないプレッシャーがあるのかもしれないが…。

 この二人の闘いといい、PRIDEの五味VS桜井の闘いといい、ほとんど寝技の展開が見られない打撃勝負は、総合の闘い方の大きな転換期にさしかかっていると言っても過言ではないだろう。

 面白いことに、どちらの勝者も右利きサウスポーで右フックをフィニッシュブローとしている。

  昔イタリアの柔道ナショナルチームが毎年、どの技による一本勝ちが多いかを研究し、決まり技の多い順に選択して重点的に鍛え上げ、試合で実践していること を84年のロス五輪のTV中継の際に聞いた覚えがある。その考えからいけば、いま王道を極める技は右利きサウスポーによる右フックであろうか?

 特にKIDの右フックは非常に精度がよく、正確に耳の下もしくはジョー(顎の蝶番の部分)を狙ってくる。やや左斜め下へダックしながら、右フックをクロールの動作のように足を屈伸して打ってくるので、インパクトに全身のバネが集約されて打ち込まれてくる。

 このフォームによる正確に急所を打ち抜く右フックと、相手の右ストレートへ合わしきる動体視力。柔軟な反応の良いステップワークと体捌き、そして強靭な 肉体から駆使されるレスリング技術がある限り、KIDに体重差は通用しない。

 KIDの牙城を崩すことはかなりの難業であろう。いったいこの階級で、誰が彼を倒すのであろうか? 倒せるのであろうか?

 本当に理に適った闘い方をするKIDを一言で表現するならば、「強い」の一言である。

(文中敬称略)

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