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第9回 秋山成勲の「進化」と山本KIDの「神技」の巻

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 最新の試合を題材に、打撃のスペシャリストである筆者が打撃技術を分析していく。その第9回目は、5月3日(水)東京・国立代々木競技場第一体育館で開催された『HERO’S 2006』。この大会の中から秋山VS永田、KIDVS宮田の2試合について寸評してみたい。

永田は秋山の左膝によって
「死に体」にさせられていた

秋山成勲VS永田克彦

■左膝の「せり出し」に秋山の進化を見た

 レスリングと柔道の元・日本代表同士の試合ということもあってか、組み技関係者の中では非常に注目度の高かったこの試合。しかし、いざ蓋を開けてみると、結果は呆気ないほど大差に…。

 戦前、私は体格的にかなりの差があり、打撃に不慣れであると思われる永田では長いラウンドは難しい と予想していた。それは秋山の前回の試合、VS石澤戦を技術分析した上での予想でもあった。

 ここ数戦、打撃技術を急速に身につけつつある秋山。技術的な向上点を大きく二つあげるとーー

①脇を閉じることに捉われず、やや開くことで体の窮屈さを払拭して肩の力を抜き、右ストレート・右アッパーを非常にスムーズに相手の反応を見ながら出している。

②パンチのヒットポイントが的確で、きっちりインパクトの瞬間にナックルで相手を捉えるため、見た目以上に効くパンチを身に付けている。

 というのが、永田戦前の私なりの秋山評であった。

 この永田戦ではさらなる技術革新を実践していた。それは、これまでの数試合では見られな かった「左膝」の動きである。柔らかく前にせり出すことで、パンチのシフトウェート(体重移動)をより正確に無駄なく行い、自然と拳にウェイトが乗ること で、インパクトの威力をよりUPしていたのだ。

 また、右ミドルに関してもこの膝のせり出しを自然に活用することで、シフトウェートをより滑らかにし、格段に切れ味を増していたのである(一流の柔道選手が打撃を身に付けるのはなかなか難しいのだが、そのセオリーは秋山には通じない)。

 秋山はウェイトの乗った右ストレート・右ミドルを駆使しながら、前々に圧力をかけていくことで、永田に常にプレッシャーをかけていた。ウェイトの乗った打撃で圧力をかけられると、経験上どうしても自分の重心をあげられてしまう。

 さすがの永田も体を伸び上がらされ、その“死に体”からではタックルの効力も薄く、何度も軽々切られていた。タックルも通じず、打撃もやりたい放題され、前々に出られて後退を余儀なくさせられる永田はまさしくヘビに睨まれた蛙状態であった。

 わずか数戦で、前膝のせりの効いたウェイトが乗るパンチ・キックをを身につけつつある秋山。足腰が強くタックルにも十分対抗できる粘り腰ゆえに、今後、より打撃技術を練り上げ前々に出る戦いを強いてくるであろう。

 この選手にシフトウェートの技術を利した、圧力をかけた戦いを強いられては、牙城を崩すことはなかなか容易なことではない。フィニッシュとなった右バックスピンキックも、打撃の圧力により得た自分の間合いからだからこそ、余裕をもって狙い打ちできたのである。

 永田戦前のトレーニングが、理に適った素晴らしいものであったのではないだろうか、と推測できる。今後HERO’S参戦が確実視される桜庭。この桜庭との対戦が今から待ち遠しい。秋山の打撃技術をもってすれば、桜庭をも捉えてしまうのではないだろうかと私は推測する。

 今まで総合の選手を何人も観てきているが、この左膝の「せり出し」を身につけたのではないか? と思った選手は後にも先にも秋山ただ一人である。今後の彼の試合に要注目だ。

山本“KID”徳郁VS宮田和幸

■「4秒KO」に秘められた飛びヒザ蹴りの軌道

 戦前の私の試合予想では、同タイプかつレスリング力に勝る宮田が相手では、KIDも苦戦を間逃れないのでは…というものであったが、そんな予想もわずか4秒で粉々に粉砕されてしまった。

 絵に描いたような、素晴らしい左飛びヒザ蹴り。技術的にどうのこうの言えるレベルの技ではない。まさしくこれぞ「驚嘆」の一言に尽きる。

 完璧なKO劇ではあるが、一つだけ技術点を論じるとするならば KIDの左膝蹴りは真っ直ぐ上にあがる軌道ではなく、袈裟切りの逆軌道の如く斜め上にあがっていくものであったということである。

 斜めから切りあがってくる蹴り技には、体の前に出る推進力をうまく連動しやすい性質があり、また、斜めから上がってくる軌道は相手選手にとって非常に見えづらく、一瞬体が膠着するものなのだ。

 この性質を日ごろの練習から知り尽くしていたならば、まさしく「神の子」に値する選手であり、その選手の技ゆえに「神技」。山本KIDの強さ・技術はどこまで駆け上げっていくのであろうか? 想像するだけでも行く末、恐ろしい選手である。

注※この大会は編集部の都合により写真撮影が出来なかったため、VTRで確認しながらお楽しみください。

(文中敬称略)

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