2016年1月度MVPスペシャルインタビュー 吉本光志(RISE)
毎月イーファイトが取材した大会の中で、最優秀選手を決める月間MVP。2016年1月のMVPは、1月31日(日)に東京・後楽園ホールで開催された『RISE 109』で、連勝街道を突っ走っていたザカリア・ゾウガリーを引退試合にしてKOした吉本光志に決定!(2016年2月9日UP)
PROFILE
吉本光志(よしもと・こうじ) |
選考理由
1、「連勝ザカリアをKO」
2、「引退試合にして最高の名勝負」
3、「キック人生15年間の集大成で花を咲かせた」
選考委員
Fight&Life、ゴング格闘技の各格闘技雑誌の編集長とイーファイトの全スタッフ
受賞された吉本選手には、ゴールドジムより以下の賞品(プロカルシウム 300粒 1個、マルチビタミン&ミネラル 1個、アルティメットリカバリー ブラックマカ&テストフェン+α 240粒 1個)と、イーファイトより記念の盾が贈られます。
贈呈:ゴールドジム
MVP記念インタビュー
ザカリアの攻撃をもらいながら“でも光はあるな”と考えていた
■負けること前提で話をする人が多かった
吉本は2000年7月にJ-NETWORKでプロデビュー、12戦目で当時全日本キックのエースだった小林聡を相手に善戦したことで名を挙げた。2006年からはパンクラスでMMA(総合格闘技)にも挑戦し、ネオブラッド・トーナメント(新人王トーナメント)で優勝。5勝1敗2分の戦績を残した。
キックに戻ってからは各団体のトップ選手やムエタイ選手と対戦し、2009年10月からはRISEを主戦場として同年11月に初代RISEスーパーライト級王者に君臨。近年では目標としていたアウェイ(敵地)での勝利を中国で達成し、45戦目となる今回が引退試合となった。
その引退試合の相手に吉本が自ら指名したのがザカリア・ゾウガリー。2014年11月のSBワールドトーナメント『S-cup』にて世界の強豪たちを倒して準優勝。今年5月にはRISEに初参戦し、現スーパーライト級王者・裕樹を飛びヒザ蹴りでKO。鈴木博昭、宍戸大樹ら国内トップをことごとく破り、“第2のアンディ・サワー”の呼び声も高い現在最注目の外国人選手である。
戦前の予想は当然のように吉本圧倒的不利だった。それは吉本の周りの人々でさえ、同じ意見だったという。
「吉本が負けるところを見に行くよとか、骨は拾ってあげるよとか、やる前から負けること前提で話をする人が多かったですね。もう悲しかったです。自分はあくまでも勝つ気でしたから。あとザカリアを指名した時点で男だね、とか。“いや、まだ試合してないし”と思っていましたね。みんな僕のことを心配して言ってくれていたんですが、やる前から悲しそうに俺のことを見るんです(笑)」
吉本自身は己を信じていた。引退試合だから負けてもいい、などと思うことは一度もなかった。最後の瞬間まで強い格闘家でいることが、吉本の目指す格闘家の姿だったのである。
「引退試合という形でしたが対戦相手が強すぎるので、感慨に浸る暇も無いくらい緊張していました。デビュー戦の時に、こんなに緊張することってあるんだ、と思った記憶があります。そのデビュー戦の時と変わらない緊張感があり、生きた心地がしませんでした」
試合が始まると、さっそくザカリアが上下に打ち分ける速いパンチで圧倒。吉本は前半ほとんど手が出ず、防御に徹する。吉本が打たれるたびに“やはりダメか…”というムードが会場を包んだが、吉本は冷静だった。
「もちろん強かったし、印象はパンチが強くて重い。パンチを警戒しすぎてローも蹴られてしまい、しんどかったです。でも、強いことは強いけれど対策をしてこなかったな、と思います。最近の試合では自分の対策をしているなって戦っていて分かったんですよ。だから今回も対策を練ってくるザカリアを想定していました。
例えば研究熱心な相手とやった時は、自分のやりたい距離でやらせてくれなかったという感想なんです。自分の連打が当たらないとか、自分が行く時は組まれてしまったりとか。ザカリアは技をバンバン入れてきましたが、自分のコンビネーションも入るなって思ったんです。だから僕ももらいながら“でも光はあるな”と考えていました」
1R後半から、吉本はボディに得意のヒザ蹴りを突き刺し、パンチで追い詰めての左ミドルもヒットさせた。ボディを狙うことは最初から決めていたという。
「ボディが弱いかどうかも分からないまま、ボディを狙う作戦だったんです。ボディが弱いかどうかではなく、ボディで突破口が開けなかったらしょうがないなって開き直りすらありました。もちろん勝つ気でしたが、どこが突破口になるのかと映像を見て研究しても劣勢に立たされているところがほとんどなかったので、だったらボディ攻めが突破口としてどうなのかなって」
その一か八かの作戦が的中した。2R、ボディ攻めを嫌がるザカリアが下がり、吉本は左右ミドルとパンチでボディを狙い撃ち。完全に失速したザカリアへ吉本がどんどん手数を出して攻め、コーナーへ詰めての左ヒザ蹴り2連発。
これでザカリアが完全に止まってしまい、レフェリーがダウンを宣告。ザカリアは試合続行不可能な状態でレフェリーが試合をストップした。
「どの技が効いたというよりも、自分の印象としてはボディへの攻撃の蓄積だと思います。1Rからコツコツと攻めた。この距離だったらミドル、近かったらヒザ、パンチは右も左も打つとか。いろいろな技をボディに集めたことが勝因だと思います。
ザカリアが苦しそうな顔をしていたことも分からなかったです。僕も見たかったけれど、僕にも余裕がなかったです。ゾウガリーがスタンディングダウンを取られて悶えていた時、僕もニュートラルコーナーで悶えていましたから。距離を頑張って詰めた分しんどかったですし。あの1回のダウンで終わるとは思っていなかったので、次はどうしようかと考えていました」
引退試合で吉本がザカリアをTKOで破るという大番狂わせを演じ、場内は大歓声に包まれた。
「もう真っ白でした。本当はTKO勝ちが決まった瞬間、ジャンプしようと思ったら足に力が入らなくて、その場に崩れました。スッと力が抜けたんでしょうね」
■引退式で言い残した言葉、それは…
興奮冷めやらぬ中、試合に続けて引退式が執り行われたが、場内からは「辞めるのを辞めろ」「まだ出来るぞ」という声が多く飛んだ。
「見に来てくれた人たちが喜んでくれてよかったですし、嬉しかったです。でも復帰はしないですよ。もうやりたくないです。それくらい完全燃焼できました。試合後も反響があって、引退試合だと言ったのに次の試合のオファーもいただきました(笑)。ホッとはしましたが、まだ精神的にも休めていない状態です」
15年間、生活の全てを捧げた格闘家人生にピリオドを打った今、吉本の胸に去来するものは何か。
「まず苦しかったことを思い出します。全日本キックが崩壊してしまったり、リング内外でいろいろありましたね。自分にとっては社会勉強でもあったし、キックに専念して就職もしなかったですし、ずっとキックに捧げてきたので。
楽しいことよりも苦しいことが多かったけれど、その分、最後に苦しい分だけの喜びもあったのかなと今は感じています。ずっと楽しいだけだったらあんなに終わって感動しなかったと思います。苦しい時も頑張ってきて、いろいろな人に助けられたり、応援されてきたことを感じて、苦しくても頑張ってやった甲斐があったなって最後に思いました。一言では言い表せないです」
今後は指導者として第二の人生を歩み出す。すでに、後輩でありヌンサヤーム会長と二人三脚で育ててきた野辺広大が、吉本が引退したその日、同じ大会でRISEスーパーフェザー級王座に就いた。
「携わるのは同じキックボクシングという競技ですが、立場が変われば捉え方も違ってくると思います。スタンスは変わらず先輩方の意見を聞きながら、自分には広大という後輩もいますし、ヌンサヤームトレーナーもいますし、その関係を大切にしていきたいと思います。
競技人生って、よく山登りに例えられるじゃないですか。昇っていって頂点に立つとチャンピオンになる。それで輝かしい景色が見える。体力が段々と衰えてきても、自分の足で下山しないといけない。自分は格闘技を、下山も含めて登山のようかな、と思います。
輝かしい戦績を収めたからそこで辞める、またはずっと居座りたい、ではなく、キャリアとともに下山もしていかないといけない。僕は下山もしたし、今度は教える選手が目立つところなので、選手が目立つためにどうすればいいか、しっかりサポートしていきたいと思います」
吉本は引退の挨拶で「夢が男を大きくする」と語った。指導者として、選手には夢を持って欲しいと願う。
「やっぱり夢がないと。夢を持ってそこに出発できるって幸せなことだと思うんですよ。日本は豊かですが、海外に行って散歩をした時に、街の外れの方に行くと夢は持っているけれどそんなことよりも今日食べることで必死だって家族の人たちがいたんです。そういう中で夢のために出来るっていうのは幸せなんだなって、海外へ行った時に実感しました」
引退式の挨拶で、吉本にはひとつ言い残した言葉があるという。
「実は、試合前にそれを言おうと思っていたんですが、勝ってホッとして言い忘れてしまいました」
吉本が最後に言いたかったこと。それは、
「生まれ変わってもキックボクシングをやります」
関連リンク
・ゴールドジム Web site
・試合レポート「吉本光志が引退試合でザカリアをKO」
・過去のMVP選手一覧
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