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【月間ベストファイター・7月】地元で王座戴冠の朝久泰央、強さの秘訣とは!ゴンナパーの殺気を読む”朝久流養我”

■朝久空手は「いつでもフリーウエイト(体重無差別)で戦える」過酷なトレーニングで2度と出稽古に来ない選手も

朝久がミドルキックを館長である父のミットに蹴る

 泰央は兄の裕貴と共に、3歳から篤館長の元で空手を始め、物心がついた時から空手の道着を来ていた。10歳の時にキックボクシングルールに転向、最初は福岡市内で(ヒジ無しだが)首相撲ありのルールでアマチュアのキャリアを積んだ。

 最初は中学生のアマチュア大会で、トーナメント制覇した選手に贈られるトロフィー欲しさからのスタートだった。

 泰央は「トロフィーはキラキラしていてかっこいいじゃないですか。40kg、45kgではワンマッチだったのでトロフィーはなくて、50kgでトーナメントで優勝してもらえるトロフィーが欲しかった」と語る。

 アマチュア時代は裕貴が上の階級であったため、裕貴が獲得したベルトを次年度では成長した泰央が獲得しにいく約束をしていた。

左から泰央、篤館長、兄の裕貴

 泰央は兄・裕貴と共に厳しい練習に打ち込んだ。篤館長は、当時の練習について「雨風の凌げない公園などでずっと練習をしていました。『お父さん来たよ』という感じで(朝久兄弟が)来て、ハンディをつけて走ったり、トレーニングをしていました」という。

 朝久道場は厳しい練習を行う道場としても知られている。日々の稽古が始まる前の基礎トレーニングで、出稽古に来た選手が動けなくなってしまうほどだ。篤館長は「道場の練習がキツすぎて、2度と来なくなるファイターもいますね。基礎トレーニングで腹筋スクワット100回とかやってる時点でぐにゃぐにゃになってしまいますね(笑)」、裕貴は「前蹴りは1000本やっている。量も圧倒的に多いのかなと思います」とのエピソードを語ってくれた。

 その過酷なトレーニングもあり、泰央は試合が決まっていない際にも脂肪が削ぎ落とされた状態をキープしている。「普段の練習で落ちるので、1kgくらいしか水抜きはしないです」とのことだ。20年3月の林戦では急遽のオファーで高いパフォーマンスを見せることが出来たのもその要因だ。泰央は「朝久空手は実戦を想定したものなので、いつでも戦えるようにしている。試合が決まっていない状態でも戦えるようにしておくのが朝久道場のスタイル」とコメント。
 
 泰央の武器は、フットワークで動き回り殺傷能力の高い蹴りを急所に打ち込めることだ。その能力は、朝久空手が”体幹”を意識したトレーニングを積んでいるからだ。篤館長曰く「体幹は一番重視しています。斜めを向いていても、たとえ効いたとしてもバランスを保てるようにします。どこからでも打てるし手打ちになっても威力が出るようにしています」とのことだ。

 泰央もそれを聞いて「体幹は普段のトレーニングでもナチュラルに磨けていますね。足腰の強さはもちろん、どんな状態になっても100%を出せる自力が強みだと思います」との見解を語った。朝久道場でのタイヤ押しや走り込みをはじめとするトレーニングが、朝久兄弟の強さの秘訣なのだ。ジムなどには通わず、朝久道場のトレーニングのみで、世界に通用する体幹を作り上げた。

■朝久流養我(あさひさりゅうようが)の真髄、相手の気を読む

朝久の左肩には”覇”の文字が入っている

 朝久空手の特徴として、相手の攻撃を読むことが挙げられる。篤館長は、ゴンナパーが攻撃をする際に殺気を発していたため、それを泰央が読んで攻撃を交わしていたと明かした。泰央は「相手と戦っていると1箇所に殺気が集まるんですよ。動いていたら『ここに殺気が来る』のがピンポイントで分かる。危ないポジションを外すと頭の上を蹴りが行ったりします」という。

 相手の攻撃を無意識的に交わす能力は、朝久空手ならではの朝久流養我(あさひさりゅうようが)と呼ばれる鍛練法によるものだ。道着の肩のあたりに付いている”覇”の文字は、朝久流養我の鍛錬を受けている者の証で、相手の気を読むことはできるとのことだ。

 兄・裕貴も「スパーリングで僕の気を先にぶつけると、泰央が避けるのでそこに(泰央が)左フックを合わせます。試合の時は相手の気を読んで避けているが、僕たち同士でやるときは『ストレートを打つよ』という気をぶつけて、フックを打ったりしています」と普段の練習から、兄弟で気の交換をしているという。

 朝久流養我のトレーニングの一つに灯りが1つのみ付いた暗いリングで、ヘッドギア無しで兄弟でスパーリングをするというものがある。危険なトレーニングであるため、他の道場生は出来ない朝久家のみの特訓だ。これは”シックスセンス(第六感)”を鍛えるものだという。

 裕貴は「相手のうっすら見えている状態でのスパーリングは子供の時からずっとやっていました。鼻血が出ていたこともありますね」、篤館長は「見えないところで感覚を研ぎ澄ませてきたのが今になるのかな」と朝久兄弟が相手の気を読んで、攻撃を交わす能力を身につけた経緯を分析した。

 また、過酷な環境でも平常心で居られる能力も朝久空手は重要視する。篤館長は、朝久兄弟が仮にマラソンをしたとして、特別速く走れるわけではないが、重要なことは、過酷な状況でも冷静に居られることだと。それがスタミナが切れることなく最後まで戦い続けられる要素だという。

 過酷な環境の中での平常心を身につける練習の一つに、素潜りを取り入れている。3分間を目標として、風呂に潜水し続けるというものだ。裕貴は「”絶対に3分いくぞ”と考えると3分になるまでに疲れてしまいます。何も考えなければ3分行けます」という。

 このような朝久空手ならではのトレーニングで鍛錬を積むことで、泰央は中国のキックボクシング団体である武林風で世界を獲った兄・裕貴と共に兄弟で世界王者に輝いた。

▶︎次ページ:王者となった泰央の見据える今後

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